» 里山の暮らしに魅了されて12年。根っこの深さを感じる輪島で、地域の次の未来をつくっています。|山本亮さん

里山の暮らしに魅了されて12年。根っこの深さを感じる輪島で、地域の次の未来をつくっています。|山本亮さん

金沢駅から車で海沿いを北へ向かうことおよそ1時間40分。白米千枚田や朝市、輪島塗そしてNHKの連続テレビ小説「まれ」で有名な、輪島市はあります。

海と棚田に太陽が反射する白米千枚田の風景(写真提供:山本さん)

学生時に輪島市を訪れ “いつか自分もこんな風になりたい” と思える方と出会い、一般企業への就職を経て、4年前に「地域おこし協力隊」として再びこの地を訪れた山本さん。現在、任期満了してから1年が経ちます。そんな山本さんに、地域おこし協力隊になろうと思ったきっかけや、現在どんな取り組みをしているか、これまでの活動を通して感じたこと、今後のご予定についてお話を伺いました。

株式会社百笑の暮らし 代表取締役/山本亮(やまもと りょう)さん

1987生まれ。東京出身。東京農業大学造園科学科卒。在学時にゼミで輪島市を訪れたことをきっかけに地域の方々と交流を深め、新鮮でおいしい食材やあたたかい人々、美しい田園風景など、輪島の豊かな暮らしに魅了される。「いつか輪島に移住したい」と頭の片隅で思い描きながら、大学卒業後はまちづくりコンサルタント会社に就職し、5年間勤務。2014年に地域おこし協力隊に着任。任期満了後は「茅葺庵」の運営や地域資源を活用した地域づくりを行なっている。

まずはじめに、山本さんが「地域おこし協力隊」になろうと思ったきっかけを教えてください。

大学のゼミで輪島市三井町を訪れたことをきっかけに地域の方々との交流が始まりました。先生に連れられて初めてこの地を訪れ、すっかり魅了されてしまったのですが、大学卒業後すぐには移住せずに、その後も活かせる仕事に就こうとまちづくりコンサルタント会社に就職しました。

働き始めてからも、年に1,2回は輪島に遊びに来ていたのですが、5年目くらいからは “いつか移住したい” という想いを実現させていこうと毎月訪れていました。そんな時に「地域おこし協力隊」の募集があることを知り、すぐに応募することに決めました。

当時は若者の移住に関する情報が少なかったので多少の不安はありましたが、協力隊の任期を満了したとしても30歳。チャレンジするなら今だと感じました。

(写真提供:山本さん)

まさに今!と思ったタイミングだったんですね。大学時代はどんなことをされていたのですか?

もともとは、里山の自然環境を活かした景観づくりを学んでいました。

三井町ではゼミの一環として地域の魅力を発見するワークショップを開催し、地域の方々のお話や自分たちの発見を元にマッピングした地域の伝統や歴史文化などの活用方法をみんなで考えていました。

1つ上の学年から三井町を訪れ始めたのですが、ある日「大学生は年に1回来ては報告していくけど、それだけじゃ地域に何も残らない。ここの景観が本当に良いと言うなら、夏だけじゃなくて春夏秋冬全部来たてみたらどうだ。」という地域の方のお話があり、年に何度も訪れるようになってから、気がつけば12年の月日が経っていました(笑)。

12年!

当時は、夜行バスで東京から金沢へ行き、そこから高速バスに乗り継いで三井町に来ていました。12時間ほどかけて移動していたので到着する頃にはクタクタだったのですが、縁側でお昼ごはんを待っている時に見える田んぼの風景や入って来る風がとても心地よかったのを覚えています。

お昼になると目の前で採れたお米や野菜が定食になって出てくるんですけど、地域の方が「これは〇〇という野菜でな、」という風にひとつひとつ語ってくれて。そんなことも印象的でしたね。それからは頻繁に通うようになり、訪れる度に地域の方々に「おかえり」と言ってもらえることで “自分はここにいて良いんだ” と思える場所になっていきました。

(写真提供:山本さん)

大学3年生の頃、地域の方がふと「都会の人ってお金がないと何もできないよね。ここには里山があるから食べるものには困らないし、私たちはたとえ貧乏でも人に優しくできるんだよ。」と話してくれました。その時に自分の価値観がガラリと変わった気がします。この地には自分だけのために生きるよりも、誰かに分け与えるという「文化」がずっと根付いているんだなと。

「人と人とのつながり」や「人と自然の共生」について、こんな風に誇らしく言い切れるおじいちゃんが素直に格好良いと思ったんです。丁度就活のタイミングだったのですが、自分もできることならそういう暮らしを目指したいし、いつか三井町で暮らしたいと強く思いました。

お話を伺った茅葺庵にある囲炉裏。朝はここでパンを焼いたそう。

地域おこし協力隊に着任してからはどのようなことをされていたのですか。

地域おこし協力隊としてのミッションは大きく2つありました。輪島産のお米のブランディングと門前通りでマルシェを企画することです。マルシェの企画は、最終的にそのプロジェクトから離れてしまうことになったのですが、お米のブランド化に関してはコンセプトづくりから販路開拓まで担当しました。

(写真提供:山本さん)

地域の方々や農家さんとワークショップを重ねて「おかずで旅する輪島のお米」という新たなコンセプトをつくり、パッケージも含めてリニューアルをしました。

前からパッケージングされたお米は販売されていたのですが、少し未完成の状態だったんですよね。パッケージやコンセプトを改めて練り直すことで売上も1.5倍に上がり、ロスがなくなったので新たに販路を広げることができました。こちらは、地域おこし協力隊の任期が終わった後も生業のひとつとして関わり続けています。

(写真提供:山本さん)

現在は、三井町の地域活性化事業をサポートしています。地域の方々と一緒に「みい里山百笑の会」を立ち上げて、料理のつまものを栽培する「つまもの部」や茅葺き屋根の茅を育てる「茅部」、観光ツアーを企画する「観光部」、新しい加工品を開発する「食部」など、20名の会員と30名の賛助会員のみなさんで地域を盛り上げようと頑張っています。

自分の得意なことで何かしたい、三井町を盛り上げたい、地域に貢献したいという60代を中心としたメンバーが集まっているのですが、それぞれに多様なスキルを持っておられるのでそのお手伝いをしている感覚です。

ステキな取り組みですね! 改めて、日々の活動や輪島での暮らしを通して感じることはありますか。

輪島は根っこが深い地域だと感じています。この地に息づく営みひとつひとつに意味があるからこそ、それらが地域文化として今日まで受け継がれてきたんだと思っていて。

(写真提供:山本さん)

あとは、山と海が近いので毎日のごはんがおいしいですね。輪島に移住してから10キロも増えてしまったんです(笑)。自然の恵に感謝しながら、日々暮らせていることの豊かさを改めて感じています。

そういえばある日、僕らの活動に興味をもってくれたカメラマンの友人が「輪島で星空を撮影するツアー」を企画してくれたんですけど、謝礼は僕がつくるカレーでいいよと言ってくれて。そういった貨幣以外で価値の交換ができるのも、こういった地域ならではなのかもしれません。

現代版の物々交換のようですね! 山本さんはこれからどのような取り組みをしていきたいですか。

現在、三井町で「里山まるごとホテル推進協議会」というものを立ち上げ、プロジェクトマネジャーとして関わっています。この地域をひとつのホテルに見立てて、レストランはこの場所、宿泊はこの場所、イベントスペースはこの場所など、この地域にある空き家を改修して活用していく予定です。

(写真提供:山本さん)

かつて自分が三井町の暮らしそのものに惹かれたように、訪れた人にこの地域の良さが伝わるようなきっかけをつくっていきたくて。学生時からこの地を訪れる度に体験したことひとつひとつを、いろんな方にも楽しんでもらいたいと思っています。

昔、1人で輪島を訪れたことがあったんですけど、農家さんが「朝食用に畑にあるものを採っていったらいいよ~」と声をかけてくれたんですよね。翌朝さっそく調理してみたのですが、茹でるだけ、焼くだけ、蒸すだけで野菜が十分おいしいことにとても感動しました。それから、実際につくり手の顔を思い浮かべながら朝ごはんを食べる時間ってものすごく贅沢だなって。

(写真提供:山本さん)

こういった経験を元に考えた「里山まるごとホテル」の構想を、2017年に開催された「みんなの夢AWARD 7」という場でプレゼンさせていただいたのですが、500人の発表者のうち2位になることができ、15社から協賛していただけることになったんです。

また、2018年4月から里山まるごとホテルの拠点として「茅葺庵」のレストラン施設の指定管理が始まることになり、これまでの取り組みを次のステップへ進めているところです。

長年の想いがいよいよ動き出しますね! それでは最後に、これから地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージをお願いします。

地域おこし協力隊着任時はツアー企画や商品開発などいろいろやってきたんですけど、まずは何でもやってみることで、自分に合うものや自分が本当にやりたいことを見つけられるんじゃないかなと思います。無理に取り組み全てをビジネス化するのではなく、そのなかから自分が責任をもってやりたいことを任期終了後の仕事につなげていけるのがベストですね!

また、将来的に地域とどのように関わりたいかを考えておくことも大事だと思います。主体的に事業をつくっていきたいのか地域の方々のサポートがしたいのか、それによって3年後のイメージも変わってくると思いますし。なので、募集要項を見るだけではなく、行政や地域が求めることと自分のやりたいことを実際に話しながら擦り合わせていくといいかもしれませんね。

あとは、地域の方と関わる上で、何でもかんでも声をかけて巻き込んでしまうのではなく “やりたいことが合えば手を繋ぐ” というスタンスが良い関係をつくるための秘訣なので、頭の片隅に置いてもらえると嬉しいです。

能登半島にも先輩移住者や協力隊は多く、どんどん増えているので、まずは現地を訪れていろんな話を聞いてみるのもおすすめですよ。輪島に来たらぜひ、三井町の暮らしを体験しに茅葺庵にも遊びに来てくださいね!

(文責・並河杏奈)