平田 明珠さん

東京都出身。平成26年に休みを利用して店で扱う食材の生産者に会いに来た能登で、豊富な食材や自然、人の温かさ等に触れたことをきっかけに、平成28年に東京から移住し、レストランを開業。生産者と料理人を結ぶ任意団体「能登F-Fネットワーク」(漁業(Fisherman)-農業(Farmer))の理事も務め、地元の食材を積極的にPR。平成30年にパスタ世界大会日本代表に。
インタビュー
平田明珠(ひらた・めいじゅ)さん
石川県七尾市に移住して能登の食材の魅力を発信する新進気鋭のイタリアンシェフ
能登の海の幸、山の幸に惚れ込み、東京から石川県七尾市に移住してイタリアンレストラン「Villa della Pace」(ヴィラデラパーチェ、http://villadellapace-nanao.com/)を開業した平田さん。地元の生産者との関わり合いを大切にしながら、能登の食材のポテンシャルを最大限に引き出す料理を提供し続けている。
全国の美食家を魅了する能登の食材を使った料理
“日本の田舎”の原風景が残る七尾市の郊外の県道沿いに「Villa della Pace」は佇む。イタリア語で平和を意味する「Pace」を店名に冠したのには、「能登のゆったりとした時間の流れを感じて欲しい」という想いが込められている。
メニューはその日の仕入れ状況で変わり、例えば10,800円のディナーは、アオリイカ、蛤(ハマグリ) 菜の花、阿岸(あぎし)の七面鳥(※)…といった具合に、料理名ではなく能登産の食材名がズラリと並ぶ。能登の四季を料理に反映させるのが平田さんの流儀。全9皿、約2時間半かけてじっくり味わうコースは、美味しさはもちろんのこと、「能登の文化・歴史、生産者の想いを伝えたい」という平田さんの信念が込められている。オープンから約2年半、評判は全国に広がり、金沢や県外から、その味を求めて舌の肥えたグルメたちが足を運ぶ店に成長した。
※輪島市門前の中山間地域で生産される七面鳥ブランドで超一流レストランのシェフ達が日本一と絶賛。
「能登に移住したから料理人として成長できた」
平田さんは、大学卒業後に一般企業の営業職を経て、料理の道に進んだ異色の経歴の持ち主。東京のイタリアンレストランに勤めている時に、能登の食材に出会い、繊細かつ力強い味わいの虜に。2016年に七尾市に移住し、同年9月に店を開いた。
「東京には、国内はおろか世界中からいい食材が集まります。でもね、使う食材の範囲を自分自身で狭めることで、料理人としての個性やクリエイティビティが磨かれると思っています。七尾への移住が、僕を成長させてくれたんです。2018年に『ワールド・パスタ・マイスターズ』(イタリアで開催されるパスタ料理の国際競技大会)に日本代表として出場できたのも、能登のおかげです」
味だけではなく、創造力も問われるのがプロの世界。「クリエイティブの面で地方はハンディがあるのでは?」と質問すると、「生産者の現場に行き、そこで見た風景、生産者の想いを料理に反映できるのが自分の強み。これは東京にいてはできなかったこと。だから能登にいることがハンディだとは思わない」と力強く答えてくれた。
また、平田さんは東京に比べて地方の方が起業ハードルが低い点も移住のメリットだと指摘する。「まず東京と七尾では店の賃料が全く違います。東京にはレストランの格付けで星を獲得している店もいっぱいあって、そうした店と同じフィールドで勝負したとしても、自分の店は選ばれないと感じました。店舗経営を考えるうえでは、そうした冷静な視点も欠かせないと思っています」
開店当初は酷評ばかり。思い悩んだ日々
2017年に、東京のレストランで一緒に働いていた奥様と結婚。2018年11月には長女が誕生した。「美しい風景と豊かな自然、人のあたたかみを感じながら成長してほしい」と話す。
さて、平田さんの料理に感動して弟子入りしたスタッフがいる。新潟県出身で、金沢の酒造メーカーで働いていた吉沢悠椰さんだ。畑に出向き、平田さんが指示したサイズの野菜を収穫するのは吉沢さんの役割。骨の折れる仕事だが、こうして吟味した素材が料理を支える。「生産者と距離が近く、勉強になります。いつか僕も地方で店を開きたい」。平田さんの教えは着実に受け継がれている。
“移住者の優等生”に例えられる平田さんだが、その道のりは決して平坦ではなかったようだ。「当初は地元の方から『値段が高い、量が少ない』と酷評されました。『値段を下げようか、でも、それじゃ自分の作りたい料理が作れない』悩みました。『失敗してもいいから、自分のやりたいことを』と開き直れたのは開店から1年半ぐらい経った時でしたかね。タイミングよく世界大会に出場できたことは、僕自身と店にとって、エポックメイキング(画期的)な出来事でした」と振り返る。
移住先のメンター的な人とのつながりを
自身の経験を踏まえて「移住を成功させるには、独りよがりの夢や憧れだけでなく、自分のビジョンと地域のニーズが噛み合うことが大切」とアドバイスする。また、「地元のメンター(世話役)的な人とつながりを持つことが近道」とも。
「僕の場合、移住する1年ぐらい前から毎月のように七尾に行き、地元のマーケティング調査をする中で、同年代の生産者や顔役の人とつながりを持てたことが後押しになりました。知らない土地では、人間関係を広げることが大切。自分がお世話になったように、能登に移住して飲食店を開きたいという人がいれば、生産者との間に入って、色々とつないであげたい」。