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特使のご紹介

森山 明能さん

森山 明能

地元企業と移住者や大学生を繋ぐ「能登の人事部」のコーディネーターを務めるほか、石川ゆかりの人の交流会@東京として「Ishikawa Drinks in Tokyo」を不定期で主催、地域と都会の垣根を無くしローカルキャリアを推進する(一社)地域・人材共創機構の代表理事も務める。

インタビュー

オーナーシップを持った“物語”を、いくつ紡ぎ出せるか。

毎年、多くの移住者がやってくる七尾市。そこには単発的な呼び込みではなく、長期的に“人の成長”に向き合い続ける真摯なサポート体制があります。今回はそんな七尾市のキーパーソンの一人である森山明能(あきよし)さんに、活動の内容や“これからの移住”について思うことをうかがってきました。

森山明能さん/1983年七尾市生まれ。07年慶應義塾大学総合政策学部卒。家業である七尾自動車学校、民間まちづくり会社・株式会社御祓川などで働くポートフォリオワーカー(※1)。前者では経営者として働きつつ、後者では地域コーディネーターとして能登島の観光プロジェクト「うれし!たのし!島流し!」や農家漁師による「能登F-Fネットワーク」の設立・企画・運営に携わる。また、都会と地方の人材還流を促進する「CAREER FOR」の運営団体(一社)地域・人材共創機構の代表理事。内閣府・地域活性化伝道師。二児の父。 
(※1)ポートフォリオワーカー…複数の仕事を掛け持ちながら働く人。

能登半島の中ほどに位置する七尾市。人口は約5万人(R2.2.1現在)で、JR「七尾駅」の駅前には公的機関の支所や企業の支店・営業所が集まり、能登の中心としての機能も果たしています。一方、市街地から少し離れるだけで、のどかな里山里海の風景に出会える七尾市は「コンパクトでちょうどいい街」なのだと森山さんは語ります。

七尾駅前の市街地

都市部と能登をつなぐ人

森山さんが“何をしている人か”を一言で表すのはなかなかの至難の技。家業である「七尾自動車学校」の代表取締役であり、姉の森山奈美さんが代表を務める七尾の民間まちづくり会社である「株式会社御祓川」のシニアコーディネーターや、「一般社団法人 地域・人材共創機構」の代表理事、などなど。数々の肩書きがあり、携わっているプロジェクトとなるとますます多岐に渡ります。しかも、その多くはプロボノ(※2)なのだそう。自身のことを「能登の外回り部隊」と笑う森山さんの、公私を超えた活動の一部をご紹介。
(※2)プロボノ…自らの専門知識や保有しているスキルを無償で社会貢献に活かす活動。

取材を行ったのは株式会社御祓川が運営する七尾のシェアスペース「banco」

東京における石川の若手コミュニティ「Ishikawa Drinks in Tokyo」

まずは「あくまでも趣味として」森山さんが主催してきた東京での飲み会、その名も「Ishikawa Drinks in Tokyo」(以下IDiT:アイディット)。石川にゆかりのある人はもちろん、“石川が好きな人”であれば誰でも参加可能。2012年から隔月で開催され続け、これまでにのべ1,200人が参加しています。“石川の若手にリーチできる、東京でのコミュニティ”として機能し、実際にIDiTがきっかけの一つとなって石川に移住してきた人もいるそう。あくまでも趣味で、と強調したのは「仕事になっちゃうと、自分がたいそく(※3)なるから(笑)」というなんとも森山さんらしい理由から。
(※3)たいそい…能登の方言で「面倒な」「だるい」の意。

「Isikawa Drinks in Tokyo」の一周年記念イベントでは100人超が集まった。

「石川をテーマとした東京のコミュニティという意味では一定の役目を果たせたかな」と森山さん。そして8年目を迎えた2019年にIDiTを“事業承継”することを決断します。「飲み会を“承継する”って、面白いですよね(笑)。でもIDiTにはその価値があると思うし、常連の金沢出身の人がUターンを機に『引き継ぎたい』と名乗り出てくれたことが何よりの証拠かなと」

“人”を見つめ続ける「能登留学」と「能登の人事部」

七尾市に移住者が多い背景として、地域と人をマッチングさせるコーディネート力の高さがあります。その代表的な事例が、森山さんもシニアコーディネーターとして関わる事業「能登留学」と「能登の人事部」です。

「能登留学」とは、2010年から始まったプロジェクト型インターンシッププログラムで、地域の中小企業と大学生・若手社会人をマッチングして、企業課題や地域課題を解決していくというもの。また、「能登の人事部」は、能登留学を行うなかで見えてきた更なる課題を解決するために2017年に始まり、能登地域における採用支援、人材育成支援などのコーディネートを行っています。(※現在「能登留学」も「能登の人事部」内の一サービスとして展開。運営は「株式会社御祓川」)

都市部の学生や若手社会人が能登でインターンをする「能登留学」

どちらにおいても森山さんが大切にしていることは“関われる余白”や“関わり方”を見せることだそう。「どんなことでも、人が自発的に動くときって『これは自分がやるべきことだ』と感じたときだと思うんですよね。だからこそ、インターンシップや採用マッチングでも、『こんなに魅力的な企業・地域です』とアピールするよりも、どんな課題があるか、どう関われる余地があるかということを見せるようにしています」

「能登の人事部」でのインターン風景。

実際これまでに「能登留学」のインターンシップ経験者のうち16名が能登にUIターンしています。「就職先がインターン先に限らないケースが多いことも興味深いポイントだと思っていて」と森山さん。「彼らは“企業に就職する”というより、地域自体に魅力を感じて選んでくれているということだと思うんですよね。そこには七尾市の地域としてのサポート体制や、移住者コミュニティといったネットワークが関係していると思っています。ひとつの事業や団体だけでなく、それらが連携しあってチームとしてまとまっているのが、七尾市の強みなのかと」

御祓川大学のクラブ活動として、移住者が集う「イジュトーク」

ローカルキャリアは“都落ち”じゃない

「能登留学」や「能登の人事部」を通して、地方でのキャリア形成を見守ってきた森山さん。今全国の仲間たちと共に新たに取り組んでいるのが、地域での仕事や移住など、地域に関わった生き方=ローカルキャリアを推進する「CAREER FOR」プロジェクト。森山さんは運営団体である一般社団法人地域・人材共創機構の代表理事を務めています。

一般社団法人地域・人材共創機構メンバーが登壇した『ローカルキャリア大喜利』イベント。

「ローカルでキャリアを積むことは“都落ち”ではないということ。むしろ、ローカルに行くことによって、自分のキャリアがステップアップしていくことを僕らは実証しようとしています。地方には解決すべき課題は山積みですし、一人ひとりに求められる役回りも多い。大企業では部分的にしか関われない物事の全体に関われるからこそ、自分のキャリアの幅が広がるし、スキルも伸びる。一方で地方は論理的に動いていないところもあるから、移住者にとっては人間的に鍛えられる面もあります(笑)。また地方にとってもロジカルシンキング(論理的思考)を取り込む良い機会。ローカルでキャリアを積んでいくことは、移住者と地域、両者に大きなメリットをもたらすと思うんです」

同時に、“ローカルかどうか”ということよりも“オーナーシップ(※4)を持てているか”という主体性の方が、これからは大切になると森山さんは続けます。
「地域に関わって生きていくことは良いことだけれど、より大切なのはローカルでのキャリアに対して自己判断をしてきているかということだと考えていて。その人がオーナーシップを持って生きられていれば、都会か地方かということは、もはや関係ないんですよね。わかりやすくするために、今は地方で築くキャリアのことを“ローカルキャリア”と僕らは呼んでいますが、新しいキャリアのあり方という意味で“フューチャーキャリア”にしようかという話も出ているくらいで」
(※4)オーナーシップ…物事を主体的にとらえ取り組む姿勢。

一般社団法人地域・人材共創機構が発行した『ローカルキャリア白書』

多様性を受容できる地域に

オーナーシップを持って人生を選択していく移住者が増えていくとするならば、今後地域としてはどのようなことが求められるのでしょうか。
「これまで移住PRというと、『自然が豊か・食べものが美味しい』といった環境的アプローチが多かったけど、それって結局日本中どこでもそうなんですよね。そうではなく、移住者の人生自体にフォーカスして、その人の人生がどう変化していくのか、ということに目を向けることが大事になるのではないかと思っています。オーナーシップを持っている人たちは、多様な生き方を受容してくれる地域に勝手に移動していくわけで。だからこそ、地域としてできることは、どんな地域でありたいかというビジョンを持つこと、そして多様性を育む環境を整えていくということなのではなないでしょうか」

自分の人生を主体的に生きて行く選択としての移住。森山さんの話には、聞く人の中に明かりを灯すような温かい力があります。移住や新しいキャリア形成をお考えの方は、ぜひ森山さんに会ってその背中を押してもらってください。