» 最初は好奇心だけで飛び込んでみたけど、宝達志水町に来て“ほんまにやりたいこと”が輝きだしたんちゃうかな〜って思います。|渡邉有美子さん

最初は好奇心だけで飛び込んでみたけど、宝達志水町に来て“ほんまにやりたいこと”が輝きだしたんちゃうかな〜って思います。|渡邉有美子さん

写真提供:渡邉さん

金沢駅から車で北へ走ることおよそ30分。石川県の中央部に宝達志水(ほうだつしみず)町はあります。

渡邉さんが運営する「bon bon cafe」では5種類のオムライスが食べられます。(写真提供:渡邉さん)

1922年に「オムライス」を日本で初めて考案した大阪の洋食店「パンヤの食堂(現:北極星)」を開業した、北橋茂男氏の生誕の地が宝達志水町であることから、2011年にはじまった「オムライスの郷プロジェクト」。このプロジェクトの新たなマネージャーを担う「地域おこし協力隊」として、2015年8月に渡邉さんはこの地を訪れました。

店内の装飾はなんと、渡邉さんによるDIY!100均で揃えたというので驚きです。(写真提供:渡邉さん)

現在は、「bon bon cafe」のオーナー兼店長としてカフェを週5日営業しながら、「オムライス町グルメまつり」の企画運営や、日々の情報発信などを主な業務としています。

そんな渡邉さんに、地域おこし協力隊になったきっかけやこれまでの取り組みを通して感じること、任期満了後の予定についてお話を伺いました。

宝達志水町地域おこし協力隊3期目/渡邉有美子(わたなべ ゆみこ)さん
1976年生まれ。大阪府高槻市出身。宝達志水町に所縁のある「オムライス」を軸にした地域の活性化事業を行うため、2015年8月より地域おこし協力隊に就任。「bon bon cafe」のオーナー兼店長としてカフェを運営しながら、オムライスと宝達志水町に関する情報発信やイベント企画・運営などを行なう。前職はネイリスト。趣味は和太鼓。協力隊ブログ「ふりむけば石川」:http://blog.livedoor.jp/yumey26/

まずはじめに、渡邉さんが「地域おこし協力隊」になろうと思ったきっかけを教えてください。

小さい頃から「田舎」とか「故郷」に対する憧れがありました。私は大阪生まれ大阪育ちで、両親も大阪出身なので田舎と呼べるところがなかったんです。お盆やお正月になると、友達が「田舎のおばあちゃん家に行ってきた」とか、TVニュースで「故郷からの帰省ラッシュがピークを迎えました」という言葉を耳にする度に、生まれた場所しか「故郷」って呼べないのかな〜と疑問に思っていました。

「いつか田舎で暮らしてみたい!」という思いが次第に高まり、自分の価値観について改めて考え始めた頃、都会特有の “お金で買える幸せ” ではなく、“魂の震える様な心の幸せ” を求めていることに気づきました。そんな時、インターネットで宝達志水町の「地域おこし協力隊」の募集を見つけたんです。当初は、その職業名から「青年海外協力隊(JICA)」の日本版のようなイメージをもっていましたね。

そうだったんですね。以前はどのようなお仕事をされていたんですか?

以前は、飲食業界で人材育成や店舗づくりを担当したり、ネイリストとして働いたりしていました。ほかには、心理カウンセラーの資格を持っています。ただ、資格は取ってみたものの、その道に進もうとは思いませんでした。好きなことを仕事にするのは難しいなと感じていて。

今の仕事に辿り着いたきっかけのひとつは、趣味でやっている和太鼓です。私はやり始めると結構のめり込むタイプなので、演奏チームをつくって曲をかけるまで上達しましたよ(笑)。

宝達志水町の美しい風景。(写真提供:渡邉さん)

ある日、ボランティアで老人ホームへ演奏しに行ったんです。演奏が終わると、「こんな自分たちのためにありがとうな〜」と入居している方々が私の手をさすりながら泣いて喜んでくれて。

ここに到るまでは人生好き勝手してきた方なんですけど(笑)、その日雷を打たれたような感覚を覚えました。その瞬間に自分自身の「価値」を新たに見出せたんですよね。誰かのためにできることがあったらまずはやってみよう! と思い、働く上での価値観もガラリと変わりました。

そんなタイミングで辿り着いたのが「地域おこし協力隊」だったんですね。実際に宝達志水町を訪れてみてどうでしたか。

移住含め、何もかも初めてのことばかりで就任当初は大変でしたよ(笑)。飲食店で働いていたことはありましたが、小さなカフェの運営は初めてでしたし、既存のカフェの立て直し作業からでしたから・・。

ですが、せっかく「オムライスの町」で売り出すならお客さんにおいしいものを食べて頂きたいので、まずは「北極星」の北橋社長に会いに行ってお話を聞きながらメニューの改良を行いました。これは誰かに試されているのではないだろうか・・と感じてしまうほどマイナスからのスタートでしたが、とにかく自分を信じて試行錯誤しながら進めてきました。

また、地域のことを何も知らないまま宝達志水町に来ていたので、何から始めるべきなのかは少し戸惑いました。さらに、町民の方も「地域おこし協力隊」という枠組みが何なのかをあまり分かっておられなかったので本当に一からでしたね。

なので、まずは私が何のためにこの町に来たのか、「地域おこし協力隊」とは何なのかを「ゆみこ新聞」をつくって町民の皆さんに届けることにしたんです。

他にも、町の広報誌に移住エッセイを書いたり、夜は飲みに行って町の方々とコミュニケーションを取ったりしながら、まずは自分に興味をもってもらえるように意識して活動していましたね。そうすることで、運営しているカフェの方にも足を運んでくれる人が次第に増えていきました。

なるほど。就任直後は「自分が何者なのか」を町の方々に伝えられたんですね。

はい。まずは、この地にお住まいの方が「私」や「地域おこし協力隊」という仕事に興味をもって頂くのが一番だと考えていましたから。そうやって地域の方々と交流を深めていくうちに、困りごとがあると地域のみなさんが助けてくれるようになりました。

例えば、大雪が降ってどうしようもなかった時には、自分の家のついでに私の家の分も雪かきをしてくれたり、新米が出来ると持ってきてくれたり。私が新聞に載った時は、切り抜きをわざわざポストに入れておいてくれたりもしました。とても嬉しかったですし、日頃の取り組みだけではなく私自身も受け入れられていることを感じました。

写真提供:渡邉さん

2017年3月に、宝達志水町で初めて「オムライス町グルメまつり」を開催。大型イベントの企画も初めてで一からやってみたのですが、当日出店していただいたお店の商品が12時すぎにほとんど完売してしまうくらい大盛況だったので、私自身もすごく驚きました(笑)。

イベントの開催はなかなか体力も労力も必要ですし、書類の申請など大変なことも多いのですが、これまで機会がなかっただけで、こういったイベントも町民に求められていることを体感しました。

改めて、日々の活動や宝達志水町での暮らしを通して感じることはありますか。

“ほんまにやりたいこと” が輝きだしたような感じがします。大阪から見ず知らずの土地にやって来たのですが、実家に帰った時に「人間らしくなったね」とか「素直な顔で笑うようになったね」と親に言われたのは正直、自分でも驚きでした。

また、「ネイリスト」としても地域と関われることに気づきました。町民文化祭でネイルのブースを出店したことがあったんですけど、おばあちゃんの爪を磨いてあげたり、ネイルをしてあげると「うわー!爪がピカピカなったわ〜。帰ったら旦那に見せよう!」と喜んでくれる様子にとても自分の心が豊かになったのを覚えています。

「オムライス町グルメまつり」では、中学校の吹奏楽部や地域の方によるステージを開催。(写真提供:渡邉さん)

ほっこりするエピソードですね。渡邉さんが「地域おこし協力隊」として日頃気をつけていることはありますか?

町の人から話を聞くことや地域を学ぶことは大事なのですが、それ以上に自分の言葉で表現し、発信し続けることを心がけてきました。地域に馴染んでいくことはもちろんですが、自分たちの役割として外からの視点を持ち続けることは忘れてはいけないと思っていて。

あとは、「地域おこし協力隊」の業務内容は自治体によっても様々で幅が広いのですが、やっぱり自分が「楽しい!」と思えることを続けていくべきだと思います。最初から楽しみを感じるのか、やってみて後から楽しさに気づくものなのかはわからないけど、そうでないと3年後のイメージが湧かないんじゃないかなって。

渡邉さんは任期満了後、どのようなことをしていきたいですか。

任期が終わったら、これまで取り組んできた「町おこし事業」全般を地元の方か後任の方に引き継ぎたいという思いはあります。地域の方に興味をもって頂けている間に引き継ぎができればベストですね。やっぱり、最終的にはこういった事業を地元の方に運営してもらうことが、本当の意味での「地域活性化」だと思うんです。

とはいえ、宝達志水町に恩を返せるまでは私もこの町に残ることを決めていて。

現在、遊休状態の建物を使ってコミュニティハウスのようなものができないかと考えています。カフェをしながら、この町の人たちが必要としていることや地域の可能性が少しずつ見えてきたので、元気な60,70代の方々と一緒に新たな「まちのエンターテイメント」をつくっていきたいな〜と。私は、地域の方々の思いをカタチにしていく立場として今後も関わりたいと思っています!

写真提供:渡邉さん

あとは、これから私たちが「生き方」を選択していくなかで、「地域おこし協力隊」の制度は素敵な枠組みだと思うので、今後新たに協力隊になる方をサポートするような仕事ができたらいいなと思っています。

協力隊の交流会や研修会に参加していると、時々プレッシャーに押しつぶされそうな方がいるんですよね。「まちのために何かしないと!」とか「地域のために特産品をつくらないと!」という意気込みは大事ですし、わたしも情熱を燃やし続けてきた方ですが、エネルギーを活用するところを間違えてしまうのはもったいないと感じていて。経験者としてその辺りのサポートをしていきたいなと思います。

写真提供:渡邉さん

今後も渡邉さんならではの関わり方ができそうですね! それでは最後に、これから地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージをお願いします。

些細なことでもわからないことがあったら、まずは地域の方々に聞いてみるといいと思います。そこから新たなコミュニケーションが生まれますし、自分自身も町に対して興味が湧いてくるのではないでしょうか。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と言うように、地域の方は何か聞いたら必ず返してくれる優しい方が多いですし、会話の中に「町おこし」のヒントがたくさん転がっていますよ。

あとは、「地域おこし協力隊って何なの?」って1000人に聞いたら1000通りの答えがあると思うんですよね。私が就任した頃よりも今はたくさんの協力隊が日本全国にいると思うので、まずはお話を聞いて、実際に地域を訪れてみることで協力隊になるイメージが膨らんでいくと思います。田舎って本当に感情的にも、感性的にも、体力的にもおもしろいので、まずは気軽に遊びに来てくださいね。宝達志水町でお待ちしています! ぜひ、いっしょに飲みましょう(笑)

(文責・並河杏奈)