能登半島の穏やかな内海・七尾湾の真ん中にある「能登島」。
自然豊かな里山・里海と共におよそ3000人が暮らしています。そんな能登島ならではの「暮らしかた」を、楽しみながら次の世代へ引き継いでいくことを目的として活動している「のと島クラシカタ研究所」などの運営を行う「能登島地域づくり協議会」で、本日お話を伺う小山さんは「地域おこし協力隊」として働いています。
能登島には年間40万人もの観光客が訪れるそう。(写真提供:小山さん)
もともと、能登島への移住を決めていたタイミングで「地域おこし協力隊」の募集があることを知った小山さん。それまでは東京にある環境コンサルタント会社で働いていました。
地域おこし協力隊着任後、能登島の将来ビジョンをつくるワークショップの開催や、地域のサイクリングルートの開拓、能登島での自然体験イベントやプログラムの開発、日本酒づくりなど、様々なことに取り組んできた小山さんに、地域おこし協力隊になろうと思ったきっかけや、活動を通して感じたこと、任期満了後のご予定についてお伺いしました。
七尾市地域おこし協力隊3期目/小山基(こやま はじめ)さん
1984生まれ。大阪出身。大阪の大学・大学院で生態学を研究後、東京の環境コンサルタント会社に就職。入社2年目に小笠原諸島を訪れたことをきっかけに、里山への移住を考え始める。能登島で開催されている「うれし!たのし!島流し!」というツアーに参加後、能登島に惹かれ家族とともに移住を決意。現在は同ツアーの事務局も行なっている。
まずはじめに、小山さんが「地域おこし協力隊」になろうと思ったきっかけを教えてください。
能登島に移住しようと決めていたタイミングで「地域おこし協力隊」の募集を見つけ、応募することにしました。もともとは、東京の環境コンサルタント会社で働いていたのですが、入社して2年目に小笠原諸島に赴任することになったんです。その時に感じたカルチャーショックが、移住を考え始めたひとつのきっかけでした。
小笠原諸島でのカルチャーショックとは、一体どんなことだったのでしょうか。
東京から小笠原諸島へ行くには、船に乗って25時間半かかるんです。生活に必要な物資は週に1回しか届かなくて。
ですが、島で暮らす方々はすごく心が豊かで、ここに無いものは何でも “自分たちでつくろう” という意識があるんですよね。エンターテイメントや娯楽も一方的に与えられたり、消費したりするものじゃなくてできる限り自分たちでつくろうと。
例えば、楽器を演奏したり、DJをしたり、カヌーレースを開催したり、1品ずつ持ち寄ってみんなでご飯を食べたり。そんな “自分たちでつくっていく暮らし” に魅力を感じたことが全ての始まりでした。
(写真提供:小山さん)
そこから能登島へはどんなご縁で訪れるようになったのでしょうか。
小笠原諸島では原生林を守る仕事をしていたので、人と自然の関係が明確に分離されていたんです。「ここから先は原生林だから人は立ち入れない」という風に。大学院で生態学を勉強していた頃から人と自然が共生できる里山に興味があり、畑を耕せる場所に移住したいと思いました。
ほかの地域も視野に入れていたのですが、ETIC.が開催しているプログラムへの参加をきっかけに能登半島を訪れ、最終的には「能登島」にたどり着きました。
なかでも、いちばん心が動いたのは「うれし!たのし!島流し!」というツアー企画に参加したことです。能登島観光協会青年部が主催し、現在は私自身も事務局として関わっています。
能登島は江戸時代に加賀藩の流刑地だったという歴史があり、能登島出身者が島外から能登島に戻る時に「これから島流しに合うんか」とからかわれるんですよね。それを逆手にとって、ツアーでは能登島の魅力にたっぷり触れられる様々な楽しい「刑」を用意しています。
初めて妻と子どもと3人で参加した時に、能登島の子どもたちが自分の子どもの面倒を見てくれて。この環境で子育てをしていきたいなと思えたのが移住の決め手となりました。
なんだかおもしろそうなツアーですね! 他には協力隊としてどんな取り組みをされてきたのですか?
地域おこし協力隊の受け入れ先が「能登島地域づくり協議会」でした。既におられた集落支援員の方が様々な地域づくり活動をされていたので、まずは能登島を知るために一緒に取り組ませてもらいました。
ワークショップの様子。(写真提供:小山さん)
例えば、将来ビジョンをつくるワークショップでは、空き家の数や将来人口、一人暮らしの高齢者数など地域の現状をGIS(※1)に落とし込み、各集落の課題や将来ビジョンに対して共通認識をもてるように地図で可視化しました。実際にハザードマップとGISの地図を合わせてみると、「浸水する可能性のあるこの地区に住んでいる〇〇さんはどのように助けに行くか?」という話になり、集落で防災訓練を行うこともありましたね。
ほかにも、耕作地の管理や獣害など実際に起こっている課題の抽出や、昔話や歴史文化のデータを元にサイクリングコースを考案するなど、島民のみなさんの次のアクションにつながるようなワークショップを開催していました。
※1地理情報システム(GIS:Geographic Information System)・・地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術のこと。(国土交通省HPより)
ただ、任期満了後のことを考えると、これだけでは到底食べていけないと感じたので、特に2年目からは収入源をつくることを意識しながら、能登島の体験プログラム開発やイベント企画を行いました。
イベントの様子。(写真提供:小山さん)
改めて、日々の活動や能登島での暮らしを通して感じることはありますか。
これまで受け継がれてきた里山や里海の暮らしの知恵や文化がどんどん失われているのではないかと感じています。
例えば、「海藻や山菜などの食材はどのように採ってどのように食べるか知っていますか?」と聞いた時に答えられる若い世代はそう多くないと思うのですが、そういったことを楽しみながら学べるプログラムをつくっていきたくて。
ほかにも、地域づくり協議会がこれまでの取り組みのなかで集めた3,200件ほどある地域文化や歴史のデータを元に地域ツーリズムをさらに盛り上げていけたらいいなと思っています。
もったいないと感じるのは豊かな地域資源はたくさんあるのに、点の状態のままつながっていないんですよね。なので、地図をつくったり島内を巡れるコースを提案したり、ガイドとして自分が関わったりしながら、自分がかつて「能登島に移住したい!」と思ったような魅力が伝わるものを、ひとつひとつカタチにしてきました。
(写真提供:小山さん)
小山さんは任期満了後、どのようなことをしていきたいですか。
まずは、これまで紹介してきたような「地域おこし協力隊」の活動を通して生まれた事業を収入源としてしっかり育てていきたいと思っています。正直、マネタイズの部分では今でも難しさを感じるところもあるのですが、一度できるところまでやりきってみようと思っていて。理解してくれた妻にも感謝ですね。
(写真提供:小山さん)
あとは、昨年度から「能登島の酒プロジェクト」を立ち上げてお酒をつくりはじめたんです。地域の酒造さんから「島流しツアーで田植えをするんだったら酒米を育てないか? 一緒にお酒をつくろう!」と連絡があったことがきっかけでしたね。観光協会青年部のメンバーで「それなら能登島の人たちも一緒にお酒をつくろうよ!」という話になり、能登島の農家さんに声をかけて、本格的な酒米づくりからスタートさせました。
完成したお酒「能登島」。(写真提供:小山さん)
お酒は、地域のみんなで楽しみながら集まれるツールにもなります。
プロジェクトを始める前は予想していなかったのですが、新酒ができた頃にお酒づくりに関わってきたみんなで集まると、「能登島の田畑をこれからどうしていくか」という話をし始めたんです。これってすごく大事なことだと思っていて。地域の将来を前向きに考える新たなきっかけにもなり得るからこそ、今後はお酒づくりにもより一層力を入れていきたいと思っています。
これからも様々な企画を通して、地域内でできないことは地域外の方にも楽しく関わってもらいながら、能登島のファンを増やしていきたいです。「ここは私の第二の故郷だ!」とか「移住はできないけれど何かしたい!」という方々が地域と関われる方法も考えていきたいですね。
なんだかワクワクが広がっていきますね! それでは最後に、これから地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージをお願いします。
決して脅しているわけではないのですが、地域と関わる仕事なのである程度は覚悟して応募することが大事かな〜と僕は思います。自分が提案したプロジェクトに対して地域の方々も本気で関わってくれるからこそ、自分が本気かどうかによって任期満了後に描けるものも変わってくるはずなので。本気で関わった方が絶対楽しいですよ!
また、経験者としてお話しさせていただくと、1年目からしっかり事業化やマネタイズのことは考えた方が良いと思います。
収益性を見込めるかどうか、日頃の活動で視野が狭くなっていないかなど、不安に思う日もきっとあると思うので、そういう時はほかの地域を訪れてみたり社会起業家向けのプログラムに参加してみるのもいいかもしれません。着任している地域や地域おこし協力隊以外のコミュニティにも参加することで視野が広がったり発想の転換ができたりしますから。
あとは「田舎で暮らす=スローライフ」を求めて地域おこし協力隊になるのはあまりおすすめできないかな〜と思います。お祭りの準備や草刈りなどの村用もあり、田舎に住むというのは想像以上に忙しくて(笑)。
最後に少し自慢なのですが、能登島はご飯がおいしい上に穏やかな内海の風景が広がっていて、里山・里海と共に受け継がれてきた地域文化を五感を通して感じられる場所です。初めて訪れた時、黒瓦の屋根も特徴的で、時代劇のなかにタイムスリップしたような印象を受けました。そんな能登島に少しでも興味をもってくださった方はぜひ、「島流し」に合いながら遊びに来てくださいね!
(文責・並河杏奈)