山田 淳史さん、朝倉 美奈さん
インタビュー
山田淳史さん(写真左)
石川県加賀市出身。大学では日本文化学、大学院では社会学を専攻。2018年春より加賀市にUターンし、加賀白山定住機構の移住コーディネーターとして活動。移住希望者のサポートや、移住促進のための情報発信を行っている。
朝倉美奈さん(写真右)
石川県能美市出身。企画制作会社に15年勤務した経験を活かし、現在は加賀白山定住機構の移住コーディネーターを務める。Facebookでは求人情報をほぼ365日投稿し続けるなど、移住者誘致の活動を行っている。
1.企業の魅力紹介や空き家活用など、移住支援を多面的に展開
現在、山田淳史さんと朝倉美奈さんは『加賀白山定住機構』の移住コーディネーターとして、加賀白山広域エリアでの移住支援を行っています。お二人が担当するのは、加賀市、小松市、能美市、白山市、川北町といったエリアです。移住を検討している相談者の希望を聞きながら、住まい探しや開業物件探し、仕事探し、仕事体験のサポートなどをしています。県内での活動のほか、東京や大阪などの都市部で開催される移住イベントにも出展、参加し、地方での暮らしを紹介したり、移住に関する疑問にこたえるといった活動も行っています。
働き方改革、自然災害、待機児童など様々な問題に直面し、より暮らしやすい環境を求めて移住を検討する人が増えています。移住の動機や希望する暮らし方は、人によって様々。移住を検討する人達からの多岐にわたる相談に応えるため、移住コーディネーターには幅広い地域情報が求められます。
「石川県に興味があるけど、どのエリアに移住しようか迷っているという方は、ぜひ相談してください」と話すお二人に、加賀白山定住機構の移住サポートについて伺いました。
2.地元を離れ、故郷の文化の豊かさを再発見
山田さんは、学生時代は都内の大学への進学を機に石川県を離れ、日本文化を探求してきました。工芸や和服、茶道といった日本文化について学びを深めるなかで、それらの文化が根付く「地域」への興味が深まり、気付けば地域づくりに心惹かれるようになっていきました。
2016年、故郷である石川県加賀市に、日本各地の大学生が集まるワークショップ『PLUS KAGA』プロジェクトがスタートすると知ります。『PLUS KAGA』プロジェクトは、人口減少に伴って生じる様々な社会的課題を抱えている加賀市で、大学生が地域の課題を見つけ、地域の協力を得ながら学生自らがプロジェクトを実践していく事業です。専攻分野や出身地、年齢の異なる約10名の学生が、何度も加賀市に足を運び、課題の解決策を提案していきます。山田さんは初年度から参加し、加賀市の地域づくりに関わる様々なキーパーソンと出会い、大いに刺激を受けたと言います。地元の高校生たちに面白い取組にチャレンジしている大人を紹介し、自分の将来像を思い描きながら学習することを推奨する塾経営者や、農業体験で国際交流を続ける農家のご夫婦、温泉街で育つ子どもたちの支援を行う主婦など、様々な市民が大学生からの提案に熱心に耳を傾けていました。移住支援を手がける会社にUターン就職したのも、『PLUS KAGA』プロジェクトでの出会いがきっかけでした。
「一度地元を離れたことで、高い美意識が底流にある加賀の文化は決して当たり前ではないと気付くことができました。『PLUS KAGA』プロジェクトへの参加を通じて、美を探求する陶芸家や工芸品を販売するギャラリーの店長とも交流が生まれ、インターネットでは詳しくは載っていない伝統工芸の技法を生で知る機会を得るなど、地元の魅力を再発見できました。こうした地元の魅力を発信し、移住者を増やし、地元に活気を取り戻したいんです。」山田さんは語ります。
3.石川を訪れた人たちを案内し、地域のよさを知ってもらう
山田さんは、『いしかわトライアルステイ』で加賀白山エリアを訪れた参加者の地域案内も行っています。せっかく石川を訪れたのに、勤務先と宿舎の往復だけで滞在期間が終わってしまってはもったいない。参加者の休日を利用して案内し、様々な角度から地域を知る機会をつくっています。
「将来、人生の転機を迎えた時に、“トライアルステイで見た石川は住みやすそうだった”と、良いイメージとともに思い出していただければと思っています。地道な活動ですが、将来的な移住に繋がる可能性がある大切な取り組みです。」
4.加賀白山エリアから能登まで、広域に及ぶ情報提供
「選択肢が少ないと、あとあと後悔が残ります。移住後に、もっと良い地域を見つけてしまったら悔やんでも悔やみきれません。そんな思いはしてほしくないので」と朝倉さんは語ります。
そのためには仕事探しや居住地選びの際に選択肢をより多く提示することが重要で、幅広い地域情報が欠かせません。朝倉さんの場合、数多くの印刷物の制作に携わってきた経験が活きています。
朝倉さんは、観光地に特化した取材も行ってきたそうです。例えば山中温泉(加賀市)や和倉温泉(七尾市)をクローズアップし、商店街や周辺の店舗の取材にあたったり、能登半島の観光客向けに、グルメ情報や体験プログラムをまとめたパンフレットの作成にも携わったりと、能登エリアの情報収集も行ってきました。
5.ありのままの地域を伝える
「誇張された情報の提供は、過大な期待を抱かせる恐れがあります。」
と二人は語ります。真実味のある情報提供を心がけており、自慢でも、卑下でもない、地域のありのままの姿を伝えることを大切にしています。
特に都市部の移住イベントに来場した人の中には、田舎に馴染みのない方もいます。「地方にはどんな仕事があるのか」「家賃の相場はいくらか」といった疑問はよく生じます。
そのため、地元企業を訪ねてはヒアリングし、その仕事の面白さや会社の将来像を記事にまとめて移住検討者に発信しているほか、仕事を切り口にした移住体験ツアーや、空き家活用の事例を知ってもらう相談会等も企画して実施するなど、より多くの移住が実現するよう活動しています。
「移住に悩む人が、現地を訪ねたくなるような具体的な求人・物件を紹介するため、これからも情報収集を重ねたいです」と、二人は移住者に寄り添うサポート姿勢を大事にしています。
地域には、歴史、風土に培われてきた人々の生活に根ざした文化が息づいています。移住支援は、そうした地域文化を日常的に実感できる豊かな暮らしを提案する活動でもあります。加賀地域での暮らしの豊かさをより多くの人に届けようと、二人は活動を続けています。