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特使のご紹介

任田 和真さん、坂口 初男さん

任田 和真さん:小松市出身。国際NGOピースボートで勤務し約50か国を訪問していたが、平成30年に結婚を機に東京から移住。高階地区の地域おこし協力隊として移住者の案内や様々なイベント企画を行う。

坂口 初男さん:七尾市高階地区は「移住の里」とも呼ばれ、7年間で東京、大阪、神奈川、ニューヨークから10人が移住。約80軒ある空き家の状態や所有者等をデータベース化して移住希望者がいれば提案している。

インタビュー

煩雑に見える人間関係の中にこそ、大切なことが詰まっている。

七尾市地域おこし協力隊  任田和真さん
七尾市高階地区コミュニティセンター長 坂口初男さん

石川県七尾市は、県内の市町の中でも移住支援に早くから力を入れていて、実際にUIJターン者も多く、特に20代後半から30代前半の若手世代が多いんです。
今回は同市で移住促進を頑張る地区のひとつ、高階地区で「いしかわ移住応援特使」を務める任田和真さん(地域おこし協力隊)と、坂口初男さん(七尾市高階地区コミュニティセンター長)を訪ねました。

“良いとこ自慢” ではない、真摯な言葉で。

「いしかわ移住応援特使」である任田和真さん自身も東京からJターンしてきた “移住者”。出身地の小松市と七尾市は同じ石川県内とはいえ、車で2時間の距離、言うなれば“縁もゆかりもない土地”です。そんな中、なぜ任田さんは七尾市高階地区への移住を決断したのでしょうか。
「僕の場合、決め手は人でした」と任田さんは話します。

任田(とうだ)和真さん。石川県小松市出身。日大文理学部卒。
大学ではサッカー部主将を務め、卒業後は国際NGO「ピースボート」に勤務し、世界一周を目指す老若男女のサポートをしながら約50カ国を巡る。
結婚を機に2018年に石川県七尾市の高階地区に移住。
現在は七尾市の地域おこし協力隊として高階地区コミュニティセンターで働く。

「子どもは田舎で育てたいと、ずっと考えていました。結婚を機に、いざ東京から石川に戻ろうとなったとき、僕の出身地である小松市には大きなショッピングセンターができていたり、実家が駅前だったこともあって、いわゆる“田舎暮らし”ができる環境ではなかったんですね。そこで、幼い頃から惹かれていた能登を移住先の視野に入れて、有楽町(東京)の『ふるさと回帰支援センター』を訪ねました。
そこで出会ったのが、僕をこの地に導いてくれた、移住コンシェルジュの太田殖之さんです。正直言うと、それまでは移住イベントなどでは、どの地域も“良いとこ自慢”ばかりで苦手だったのですが、太田さんは全然違って。自慢話ではなく、まず僕たちの人生相談にじっくりと乗ってくれました。あくまでも『あなたにとって、もし能登が合うのであれば、紹介しますよ』というスタンス。太田さんを通して知る能登も魅力的で、“この人なら信頼できる”と直感したんです」。
その後トントン拍子で話が進み、住まいも仕事も、太田さんの紹介ですぐに決まったそうです。

「良いことも、そうじゃないことも、ちゃんと伝える」

そんな体験が、自身の移住のルーツにあるからこそ、任田さんが移住検討者の相談に乗るときも「まずは相手の話を聞く」ということを大切にしているそう。 「ピースボートに乗船していた時も、世界各国の様々な年代の方と話してきたので“いろんな立場の、いろんな意見の人がいる”ということは骨身に染みてます。人の話を受け入れる力は、ここで鍛えられたと思います」。

任田さんは若干27歳。明るく溌剌としているのに、浮ついたところがなく、どっしりと話を受け止めてくれる安心感が。

そして、もうひとつ大切にしているモットーが「良いことも、そうじゃないこともちゃんと伝える」ということ。この言葉は京都府南丹市のNPO法人テダスが作った「集落の教科書」の第一版のコンセプト。そこに研修に行った際に、このコンセプトに共感し同じ志を持ったそう。
「地方には、都会の感覚だと煩わしく思うようなルールやしきたりもあります。そういうやりとりも含めて好きだと思える人が、地方移住に向いていると思うんです。けれど、好きになるにも、その地域にどんな風習があるのか知らなければ好きにもなれない。そこで僕らも、高階で『集落の教科書』をつくることにしたんです」

“暗黙のルール”を可視化した『集落の教科書』。

高階版の『集落の教科書』は、任田さんと「能登留学」(地域へのインターンシップ)で七尾市を訪れていた大学生が中心となって作成。(2019年3月発行)。
高階地区にある9つの町会を徹底的に取材して、町会費や役員の決め方、お葬式の手伝い・作法にいたるまで、各町で暗黙のルールとされてきたものをあえて明文化。そこには任田さん自身が移住当初に失敗した、苦い経験も反映されていると言います。
「例えば、僕らが引っ越して間もない頃、地域の方々から頻繁に差し入れをいただいたんです。『お返しなんていいげんよ(「必要ない」の意)』という皆さんの言葉を鵜呑みにしていたら、『あの夫婦は何をあげてもおかえしせん』って噂が広がっていて(笑)。僕はこの地域における『お返しなんていいげんよ』の意味を分かっていなかったんですよね」と苦笑い。
「差し入れやおすそわけは田舎において、ひとつのコミュニケーションツール。頂けるものはありがたく頂いて、その分いろんな形でお返しをすることで、いわゆる近所づきあいが広がっていく。この田舎の当たり前が、想像以上に楽しいです。」

「集落の教科書」作成時の打ち合わせ風景。

また、高階を訪れた大学生に「おかしいと感じたこと」を聞き出し、若者が田舎に来て戸惑うしきたりをコミカルに表現した動画まで制作したそう。
「高階は新しいことをしようと思ったときに、誰も否定しないんです。やりたいと思う人がいたら『やらんか』って背中を押してくれる雰囲気がある。みんなが繋がっていて、誰が何をしているかわかっているからこそ、サポートしてくれる。高階地区には、いわゆる名産品や特産品はあまりないのですが、この“人とのつながり”こそが、高階の宝だと思っています」

地方の空き家情報はクローズドな場合が多い。

ところで、移住に欠かせない住まい事情はどうなのでしょうか。高階地区コミュニティセンターでは、独自で空き家情報の把握に務めていると、センター長の坂口さんは話します。

坂口初男さんは高階地区コミュニティセンター長であり、高階地区活性化協議会の事務局長でもある。
「一口に空き家と行っても、今すぐ住める状態かどうか、各々具合も違います。
そういった情報が集まってくるところが、コミュニティセンターなんです」。

「田舎の空き家情報は、市の空き家バンクには登録されていな場合が多いんです。というのも、一度ネット上に空き家情報が公開されてしまい、地域の人の目を通さずに直接契約してしまったら、全く知らない人が突然地域に入ってくることになる。それが原因でうちの地区では以前トラブルも起きました。ですから、今はできるだけ地域のフィルターを通して、信頼できる方に来ていただこう、という方針に転換しています。住まいのことは私たちに一度ご相談ください」

田舎暮らしを疑似体験できる「移住体験住宅」。

定住までいかずとも、お試しで七尾を訪れた方が一時的に利用できる拠点として、「移住体験住宅」も整備されており、無料で貸し出されています。

「空き家だった古民家を、協議会で借りて、金沢工業大学の建築サークルの 学生さんにお願いして、改修してもらいました。食器などの備品は、ご近所さんに声をかけて集めたのですが、昔は冠婚葬祭を各家で行っていたこともあって、九谷焼や漆器など、素晴らしいものが集まりました。利用者の方は、能登の下見ツアーの拠点として利用される方も多いですし、長期だとインターシップで七尾を訪れる学生さんに1ヶ月半貸し出したりもしています。この家自体が集落にある古民家なので、ここでの暮らしが、移住に際してひとつの判断材料になると思うんです。(任田さん)」

実際に高階に移住してきた8組のうち、3組はこの移住体験住宅を利用したそう。

改修を担当してくれた金沢工業大学の建築系サークル「Toiro」。

「移住体験住宅」の様子。

人間関係の中にこそ、人として大切なことが詰まっている。

住まいさえみつかれば、それで移住は完了…という訳にはいかない。地方に移住するということは、そこにあるコミュニティに自らコミットしていくということ。
移住時の挨拶回りから、草刈りなどの地域行事、集金や回覧板の収受にいたるまで様々な関わり合いがある。都会の感覚からすれば、こういった地方特有のやりとりや人間関係は煩わしく感じるかもしれません。
しかし、そこにこそ人として大切なものがある、と任田さんは話します。

「移住前は新宿に住んでいたので、隣の人の顔も知らなければ、まして町会長なんているの?というレベル。だから僕は今、田舎暮らしの人とのやりとりが、一つ一つ楽しい。コミュニティが希薄になっていく現代において、何か“人として大切なこと”がそこにつまっているのを感じます。僕らの子どもにも、この高階で“地域の子”として育っていってほしいと願っています」

最後に移住者に一言。 「最終的には、どこに住むかなんてその人の自由。都会であれ田舎であれ、自分らしい暮らしができるところに住むのが一番だと思います。そのためにはまず、その地域の人を通してその地域を知ることが大切。若い世代の田舎暮らしのハードルは思っているよりもずっと低いと思います。決して仕事や収入だけに縛られず、直感や感性を大切にその人らしい暮らしが見つかると良いなと思います。(任田さん)」
「同じ日本の中で引っ越しするだけで、なぜ“移住”という言葉をわざわざ使うのかなと思うほど。あまり仰々しく考えず、一度高階に遊びにきてください(坂口さん)」