昭和の住宅が、美しき金澤町家に
- 空き家
活用事例 カフェ・設計事務所
・自宅として活用
(金沢市東山)
北出健展さんと、奥さまの美由紀さん。(撮影・JELL-architects)
一年かけて、じっくり物件探し。
- カフェ&設計事務所&自宅として改修した町家。
金沢市東山の住宅街の一角にあがる「豆月」の看板。ここはカフェであり、設計事務所「ジェルアーキテクツ」のオフィスであり、かつ住居も兼ねている。
この町家の持ち主である北出夫妻は、金沢に移住する前は、神奈川県大磯町の古民家を自宅兼事務所として借りていた。しかし「家を購入し、ずっと暮らす場所はどこがいいか」と自問自答したとき、都内で携わる設計の仕事や、関東で暮らす両親のこと、二拠点居住をする際の交通の便…なども鑑みて、選択肢として金沢が浮上した。
- 甘味処「豆月」でいただける「黒豆かん」。
金沢での物件探しにあたっては、ウェブや知り合いの不動産屋さんからの情報をはじめ、「金澤町家情報バンク」の物件や「金澤町家流通コーディネート事業」にユーザー登録するなど、1年ほどかけて物件探しを進め、現在の町家を購入した。
その後、購入した町家の改修を進めるにあたり、別の町家を借りて仮住まいとし、金沢の街に触れながら、二拠点居住を始めた。
とても町家には見えなかった物件。
- 改修前の状態。町家であることがほぼわからない。
(撮影・JELL-architects)
格子や黒瓦の庇など、実に伝統的でオーセンティックな町家で、2016年度の「金沢市都市美文化賞」も受賞した。
元々町家としての状態がさぞ良かったのだろうと思いきや、購入当初は「とても町家には見えない状態」だったという。
「築80年程経っており、外観はモルタル壁で覆われていましたし、床は腐食が進んでブヨブヨ、家財もたくさん残っていました。私達の前にすでに20組ほど、この物件を内見していたらしいのですが、あまりの状態に皆さん諦めたようで」
- 改修前の屋内の様子。家財の運び出しは友人たちの手を借りながらワークショップを開催。
(撮影・JELL-architects)
しかし、建築士である北出さんの目には、当時すでにこの町家の未来像が見えていた。
金沢市の重伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)にある金澤町家では、主に外観・構造の修理・復元に最大で8割(1,500万円まで)の補助金が交付される。一方で、国産材を使用したり、伝統的な工法を用いるなど、制限があり、修繕費も割高になり、手続きに時間も必要だ。北出さんの場合、町家購入から完成まで丸2年を要した。(改修の様子はブログ金澤町家改修ものがたりで紹介している)
「この町家の改修に補助金を利用可能かどうか、購入前に金沢市役所に赴き、確認しました。購入と改修の費用は、町家にも実績のある地元金融機関を利用しました。
「時間はかかりましたが、その分じっくりと家と向き合うことができました」
日々を愛でる町家での暮らし。
- 改修後の様子。/(左上)カフェスペース(右上)2階のオフィス兼自宅(左下)茶室(右下)カフェから見える坪庭。(撮影・JELL-architects)
完成した町家には、茶室が2つ設けられており、カフェからは苔も美しい坪庭が愛でられる。取材にうかがった日も玄関には打ち水がなされていた。
「町家での暮らしは四季の変化を楽しめる」とは奥さんであり、カフェを営む美由紀さん。
「新築の場合、同じ金額をかけたとしても、同じグレードのものはできないし、古い建物だと土地の値段で取引される一方、使われている素材や造り上げる技術、愛着を持って日々行われてきたメンテナンスなどには大きな価値があります。金澤町家は改修にはある程度お金がかかるけれど、金沢での暮らし考える方にはおすすめだと思います」