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空き家活用事例集

小栗伸幸さん

空き家探しから広がる、セカンドライフの展望。

空き家
活用事例

体験型宿泊施設開業
小栗伸幸さん
(穴水町)

小栗伸幸さん。現在は自身の経験を生かし「穴水町移住定住支援員」も務める。

湖面のように穏やか穴水湾。宿泊施設から車で数分の距離。
湖面のように穏やか穴水湾。宿泊施設から車で数分の距離。

第二の人生は、自然豊かなところでのんびりと暮らしたい―。多くの人が一度は夢見るものの、現実の様々な事情から、実行に移す人はそう多くない。
今回は、紆余曲折を経ながらも、能登半島の穴水町で「自然体験型宿泊施設」を開業した小栗伸幸さんをご紹介。

理想の“終の住処”を求めて。

小栗伸幸さんが穴水に移住して来たのは一昨年の12月のこと。定年退職前までは保険会社の会社員で、住まいは横浜だった。
「退職後は社会貢献ができるような仕事を」と、当初はJICAの海外ボランティアスタッフに応募するも、審査に落ちて断念。「せっかくだから海外に住んでみようかと、マレーシアやフィリピンにも行きましたが、日本人コミュニティの中で毎日ゴルフばかりするような生活は、何か違うなと感じて」

同時に円安も進んできたため「日本に戻って田舎暮らしをしよう」と方向転換。その候補地として、まず石川県が浮かんだと言う。
「会社員時代、何度も転勤がありましたが、政令指定都市じゃなかったのは唯一、金沢だけでした。妻の出身が石川県ということもあり、地方で暮らすなら石川かなと」

甘くない物件探し。

最初に目をつけたのは能登島。「スキューバダイビング・ゴルフ・温泉」と、小栗さんの趣味が三拍子揃った理想的な土地だった。
能登の移住ツアーやセミナーに参加する中で、能登町の農家民宿「春蘭の里」実行委員の多田さんの話を聞き「能登の自然を体験してもらえるような、民宿をやりたい」という想いが沸々と沸き上がってきた。早速、民宿にもできる物件探しをスタートするが、思うようには進まなかった。
「リゾート地として人気が高い能登島は、物件が出たとしても一瞬でなくなってしまうんです。また、表に出て来ない情報も多い。これは現地に住まないと話にならないなと」

そして、2015年12月に、横浜から移住。能登島に近い穴水町で賃貸物件を借りた。住みながら物件を探している内に「穴水も海が穏やかで、景色がすごく綺麗で。リゾート感はないけれど、ここでも良いのでは」とふと思い立つ。また、穴水町は宿泊施設開業への補助が手厚かったことも、小栗さんの背中を押した。
最初は地元の不動産会社も尋ねたが、なかなか自分に合った物件探しが進まないことに落胆して、穴水町の空き家情報サイトを活用し、自ら探すことを決意する。

空き家探しの道中に、運命の出会い。
外壁は自分たちで塗り直している。この日は親戚の人も手伝いに来ていた。
外壁は自分たちで塗り直している。この日は親戚の人も手伝いに来ていた。

そして役場の担当者と、物件を巡っていたある日、真っ赤なペンション風の建物が目に留まった。
一目でピンと来た小栗さんは、「この建物、売るつもりはありませんか?」と、偶然その場に居合わせた持ち主に話しかけた。突然の申し出に、訝しがられてその場は断られるも、後日「改めて話を聞きたい」と連絡が入る。それが現在の住まいであり、2017年春に体験型宿泊施設を開業する建物だ。

取材にうかがったのは開業1ヵ月前。
取材にうかがったのは開業1ヵ月前。
ゲストルームの一つ。壁の色は部屋ごとに違う。
ゲストルームの一つ。壁の色は部屋ごとに違う。

「元々は、大阪の専門学校が合宿所として使っていた建物だそうで。築30年程度ですが、なにせ居住用ではないので、造りが簡易で。水回りや内装など、改修には余生の蓄えをほとんどつぎ込みました。笑」

現在は16頭の山羊を飼育中。写真は生まれたばかりの仔山羊。
現在は16頭の山羊を飼育中。写真は生まれたばかりの仔山羊。

体験型宿泊施設「兜ガーデンファーム」は2017年4月下旬にオープン予定。目玉となるのは「山羊」だとか。山羊は温厚な動物で、セラピーとしても近年注目を集めている。ペンション前の野原でのびのびと育つ山羊との触れ合いや乳搾り、山羊のミルクを使用したチーズづくり、ピザづくりなども体験してもらう予定だそう。

宿泊施設の目の前に広がる公園。ここを整備して牧場とする予定。
宿泊施設の目の前に広がる公園。ここを整備して牧場とする予定。

「最終的には穴水でワイナリーをつくりたいんです。60過ぎて事業始めるなんて、夢見てるかロマンチストだと笑われるかもしれませんが」と小栗さんは苦笑いするが、その表情は明るい。「田舎暮らしを」と始めた空き家探しから、思わぬ形で、小栗さんの次なる夢が広がっている。