日本海の碧さと、輪島の塩に魅せられて。
- 空き家
活用事例 移住・飲食店・自宅
橋本三奈子さん
(輪島市朝市通り)
オープン直前の看板作りの様子。2016年9月に住民票を移して起業・開店準備をスタート、同年11月から輪島で暮らし始め、11月20日に「のと×能登」を開店した。
輪島の朝市通りへ移住し、食堂をオープン!
- 黄色の暖簾が目印の「セレクトフード のと×能登」。1階には食堂と厨房、食品加工設備などがあり、5LDKある2階が橋本さんの住まい。
輪島市河井町、観光客で賑わう朝市通りの中ほどに、2016年11月にオープンした「セレクトフード のと×能登」がある。この店を切り盛りするのは、東京都西東京市に本社があり、輪島の塩の生産・販売を手掛ける「美味と健康」社長の橋本三奈子さんだ。
橋本さんは富士通のSE(システムエンジニア)として部長職もつとめたキャリアウーマンで、2009年に会社を辞めて「美味と健康」を立ち上げた女性起業家。2010年に輪島市内に製塩所を作り、2016年11月に飲食店・食品加工事業を始めるため、東京にご主人と娘さんを残して単身で輪島へ移住した。現在は輪島に生活の中心を置きながら、東京の家・会社を往来する二拠点デュアルライフを送っている。
- お店にも明るく親しみやすい橋本さんの雰囲気が現れている。人気の塩ラーメンやうどん、カレー、焼きそばなど、オリジナルの塩を活かしたメニューはテイクアウトも可能。朝市の食材の持込調理サービスや塩・バスソルトなどの販売もあり、能登で始めた趣味のラジコン飛行機が店内を飾る。
「私の場合は移住より先に、輪島市で製塩事業をスタートしていたので、ちょっと特殊かもしれませんね。SE時代に知人の紹介で舳倉島(へぐらじま)の海水を使って製塩している製塩家の中道肇さんの塩に出会い、その美味しさに魅せられて、安心・安全で美味しい塩を自分でも作って販売したいと思うようになったんです」と橋本さん。
- 輪島の北方約48kmの海上に浮かぶ舳倉島。橋本さんはこの青い海から取水した海水を使い、輪島市内に建設した製塩所で中道さんに塩作りを委託している。
2010年には中道さんの協力を得て、自身の製塩所を輪島市内に設立、オリジナルブランドの塩の製造販売をスタートした。東京を中心に販売し、取引先の飲食店をまわるうちに自身でも食の提案をしたいと思うようになり、週末だけカフェを借りて輪島の塩と朝市から仕入れた干物や海藻などを使った料理を提供する「のと食堂」も開くようになった。
口コミ情報と空き家データベースで物件探し。
- 正午までは路面店の前に朝市のテントが連なる。魚の干物、アワビ、サザエ、海藻類や野菜などが並び、「買うてってー」「おまけしとくよ」などの声がかかり、人との交流の楽しさも朝市の魅力。
「日本海の碧さが大好きで、輪島には何度も訪れました。塩のファンの友人を案内して輪島ツアーをしたり。朝市の人達とも親しくなり、ある時、朝市通りの空き家で入居者を探しているという情報を耳にしたんです。インターネットで“輪島市 空き家”で検索したところ、市が運営している「空き家データベース」というサービスを見つけました。輪島に来ているときにメールで見学を申し込んだところ、翌朝には市役所の方から返信があって、すぐに大家さんとお会い出来ることになりました」と橋本さん。
その日のうちに物件を見学し、「このお話を進めさせてください」と大家さんに連絡。橋本さんの能登移住計画が本格的に始動した。
「先に立地も外観も分かっていたので、データベースを調べてお目当の物件はすぐに見つけられました。自分の飲食店を持ちたいという思いはありましたし、現地に何度も来ていたので、朝市通りで食堂を始めることに迷いはありませんでした」という。
サポートを受けて、移住準備と手続きを開始。
- 1階店舗・厨房の工事の様子。ペンキ塗りや看板作りなど、自分で出来ることは自らの手で。
- 2階は廊下を挟んで左右に部屋が並ぶ。右下はリフォームしたリビングとダイニングキッチン。
空き家になる直前は、輪島塗の塗師が通いで使う工房として1階だけが使われ、コンクリートの土間には埃をかぶった道具がいくつか残った状態だったそう。空き家といっても比較的状態がよく、2階部分はキッチンとリビングをリフォームしたが、ほとんど修理が必要なかった。ただし、上下水道が整備されていなかったので、飲食店を始めるにあたり1階部分は水周りの改修と内装工事が必要だった。
「輪島市では、空き家データベースを利用してU・Iターンすると、最大30万円の移住定住奨励金や最大50万円の賃貸住宅改修費用の補助金などが利用できます。私の場合は飲食店を始めるので、市役所の方が起業・新規出店支援事業の補助金があることも紹介してくれました。新規事業の補助金は最大300万円まで利用できますが、地元の金融機関の融資が必要で、すぐに資料を準備して金融機関でプレゼンして融資を申し込みました。大家さんもとてもいい方で、入居前に不要なものを片付けてくださったり、改修工事にも理解をいただき、応援していただいています」と橋本さん。
移住先での新生活は、ご近所付き合いも楽しみながら。
- 左は輪島朝市組合の副会長で、製塩家の中道さん。橋本さんの製塩事業と輪島移住のきっかけとなったキーパーソンであり、心強い輪島ナビゲーターでもある。
「他所から転入してきた人間には厳しいのかなと思っていたのですが、皆さん温かく迎えてくれて。思い切って飛び込んでみると、朝市のお母さん達も姉御肌で可愛がってくれています。朝コーヒーを振舞ったりして仲良くなり、今では朝食や昼食に利用してくれる常連さんになって、観光客にうちのお店を紹介してくれたりも。私も朝市の賛助会員になっています。東京で暮らしていたからこそ分かる視点などを活かして、朝市の魅力発信にも役立ちたいと思っています」と橋本さん。
移住する前に何度か現地を訪れて情報収集し、物件や仕事を探すことも大切だが、知り合いを作ることや、ご近所付き合いも都会とは違うことを意識しておくことも移住成功の秘訣になりそうだ。橋本さん曰く、二拠点生活から始め、その土地との相性を確認してから移住するのもおすすめとのこと。
「少し歩けば大好きな海に出られる。輪島は海も山も近くて自然が豊か。家も広くて、こんな贅沢はありませんよ。これから食品事業も拡大したいし、2階は部屋もたくさんあるので、いずれはゲストハウスなどもできたらと考えています。まだまだやりたいこと、夢がたくさんあります。輪島は能登空港も近いので、必要な時はすぐに東京へも行けます。ここでの暮らしは新しい生き方、これからの生き方の一つだと実感しています」と目を輝かせる橋本さんが、これから夢の数々を実現していくのが本当に楽しみだ。