» 自身の夢を地域おこし協力隊の活動に重ね合わせて宿泊施設を開業|黒澤卓央さん

自身の夢を地域おこし協力隊の活動に重ね合わせて宿泊施設を開業|黒澤卓央さん

輪島市黒島地区は、かつて北前船の船主および船員(船頭や水主)の居住地として栄え、江戸後期から

明治中期にかけて全盛を極めた集落です。

当時の様子を今に伝える街並みは、国の重要伝統的建造物郡保存地区にも選定されています。

黒島地区の美しい景観に心惹かれた黒澤さんは「輪島市地域おこし協力隊」として、この地区の空き家を

活用した宿泊施設の開業準備に取り組んできました。

黒澤さんが3年間準備に携わってきた宿泊施設は2022年4月に開業予定。

そこで、協力隊に応募したきっかけや協力隊を目指す方々へのアドバイスをもらいました。

 

高台から望む輪島市・黒島地区の風景

 

輪島市地域おこし協力隊/黒澤卓央(くろさわ たくお)さん

1968年、愛知県名古屋市生まれ。東京の大学を卒業後、情報通信関連の会社に就職。

海外本部に在籍し、マレーシア、ベトナムでの海外勤務を経験。

独立起業を夢みて情報収集する中で、黒島地区での協力隊募集を知り2019年6月に輪島市に移住。

宿泊施設の開業準備を担当。奥様の恵三子さんも輪島市地域おこし協力隊として黒島地区で飲食施設の準備に

携わっている。

 

〇黒澤さんが「地域おこし協力隊」になろうと思ったきっかけを教えてください。

元はと言えば、あまり制度を知らなかったこともあり、地域おこし協力隊に応募することは考えていません

でした。

会社員生活を27年してきて、海外勤務では現地事務所の立ち上げに携わるなど、充実した時間を過ごすことが

できました。

その中で外国人の友達から日本の事を聞かれることがよくあり、日本人でありながらあまり日本のことを

よく知らないと気付かされました。

そこで一時帰国する度に日本の色々な場所に旅するようになったのですが、旅自体は楽しいながら、

日本の旅館の宿泊のスタイルが自分たちにあまり合わず、思うような宿がないなという印象が残りました。

日本に戻ってからは、日本らしさが感じられる原風景が残る場所で心身ともにリラックスできるような宿、

海外ではポピュラーな「ヨガリトリート(※)」と呼ばれるような宿泊施設が、自分たちのやりたい

イメージに近いと思い、宿泊業で独立起業する考えに至りました。

 

※「ヨガリトリート」

 普段の生活から離れた「非日常」の空間で、ヨガなどを通して自分自身と向き合う時間や場のこと

 

〇「ヨガリトリートで独立」というイメージがあったにもかかわらず、なぜ輪島市の協力隊に?

「開業するならどこで?」と候補地を探しました。その1つが能登でした。

加賀・能登の奥深い文化、それを大切にしている地元の方々の姿が印象的だったのを覚えています。

3年ぐらいかけて能登のあちこちを見て回りました。

そんな時、黒島地区での地域おこし協力隊の募集を知りました。

「ヨガリトリート」ではありませんが、宿泊施設の開業は自分たちの起業イメージにも合致していました。

「渡りに船」ではありませんが、「ウィンウィンの関係が築けるのでは?」と感じ、輪島市に移住して

協力隊員として活動することを決めました。

 

輪島市地域おこし協力隊の黒澤さん

 

〇黒島地区の第一印象はいかがでしたか?

「黒瓦」に「格子」、「下見板張り」の建物が織りなす景観が美しく、すごく興味をそそられました。

街並みに統一感があって、人通りもないので、映画セットを見ているかのような不自然さを感じたぐらいです。

この地区は、2007年の能登半島地震で大きな被害に遭った地域です。

建物を修復する際に、もっと現代的な住まいに修復することも可能だったと思います。

ですが、地元の方々はそうせず、歴史ある街並みを再興しました。

そのことからも、地域の方々が北前船で栄えた能登天領黒島に誇りを持っていることを感じました。

地元の人は黒島を「何もないところ」と言いますが、歴史文化が大切にされ、継承されていることほど

魅力的なことはないと思っています。

 

重要伝統的建造物郡保存地区に指定されている黒島地区の街並み

 

〇協力隊の成果として、2021年11月に「かぞく會館」がソフトオープンしていますね。

「かぞく會館」は黒島地区の旧家を輪島市がリノベーションしたもので、宿泊施設のレセプションホールや

ラウンジとして使っていく予定です。

同時に、まちの人たちのコミュニケーションスペースとしての役割も担っていて、コーヒーや紅茶が楽しめる

カフェとして営業しています。

 

〇2022年4月に開業予定の宿泊施設はどのような施設になるのですか?

黒島の歴史的な建物をそのまま活かした「貸し別荘」をイメージしています。

連泊していただき、街の人たちと交流を深めながら、黒島の魅力を存分に味わっていただく。

もしくは、ここを拠点に能登観光を楽しんでいただく、そんな施設にしていく予定です。

 

〇黒澤さんは2022年3月末で協力隊の任期が終わりますが、引き続き輪島市に残って

 宿泊施設の運営に携わっていくそうですね。どのようにこの施設をPRしていきますか?

「広くあまねく、いろんな人に利用していただく施設」ではなく、提供する情報量をあえて絞り込んで、

「旅先をいろいろと探しているうちに偶然見つける」そんな場所になればと思っています。

「自分で発見する喜び」や「偶然の出会い」といった、宝探しのような面白さを味わっていただきたいですね。

だから、PRも旅行代理店任せにするのではなく、利用いただいた方々の口コミを大切にしていきたいと

考えています。

 

2021年11月にソフトオープンした「かぞく會館」

 

〇奥様の恵三子さんも2020年4月から輪島市の地域おこし協力隊として活躍されていますが、

 応募した理由は?

恵三子さん

もともと輪島市の地域おこし協力隊は、空き家を活用した「宿泊施設」、「飲食施設」、「物販施設」の開業

という3 カテゴリーでの募集がありました。

「宿泊施設」については主人が担当しましたが、「飲食施設」と「物販施設」は担い手がいないままでした。

移住してすぐに⿊島の皆さんには温かく迎えていただき、すごくよくしていただきました。

その恩返しというには全く足りませんが、何か少しでも地元の方々にも楽しんでいただけることができたら

良いなと思い、「飲⾷施設」の開業準備に応募することを決めました。

 

〇飲食関係ではどのようなプランを描いているのですか?

恵三子さん

黒島の宿泊施設は長期滞在を想定した宿なので、連泊してお食事をしていただいても胃が疲れない、

消化のいいお料理を提供していきたいと構想中です。

一方、地元の方もご利用いただく「かぞく會館」のカフェメニューは、「友人の家にお呼ばれした雰囲気」を

イメージして、世界中から厳選したコーヒーや紅茶、手作りの焼き菓子を提供しています。

ソフトオープン以来、毎週のように来店される常連のお客様もできて、毎日楽しく過ごしています。

 

地域おこし協力隊として活動する黒澤ご夫妻

 

〇これから協力隊を目指す人たちにアドバイスをお願いします。

 また、「地域おこし協力隊」の制度について気付く点があればご指摘ください。

 自分の社会経験を協力隊の活動の中でどう活かせるかを考えることが大切です。

地方では地域振興策が大きな課題です。

「何を、どうすればいいか?」それがわからないから、地域おこし協力隊という名目で外部の人の力を

求めているのだと思います。

協力隊員は、地域の人たちと積極的にコミュニケーションをはかりながら、

「地域の人たちが何を求めているのか?」を把握したうえで、

「自分の経験を活かした事業」を提案する必要があると考えます。

一方、行政側は協力隊を募集する際に「まちおこし」といったような漠然とした内容ではなく、

ある程度具体的にミッションを示すことが必要だと感じます。

そうすれば、協力隊員とのミスマッチが防げて、目標にも早く近づけるようになると思います。

 

「自身の社会経験を活かすことが重要」と語る黒澤さん