» 「訪れる」から「暮らす」へ。加賀市が輝くための新たな事業づくりに取り組んでいます。|田中美紗斗さん

「訪れる」から「暮らす」へ。加賀市が輝くための新たな事業づくりに取り組んでいます。|田中美紗斗さん

写真提供:田中さん

「加賀温泉郷」があることで知られている、石川県加賀市。金沢からはJR北陸線の特急で約25分のアクセスです。写真の奥に映るのは、雪がかった美しい白山。

本日は、加賀市の「地域おこし協力隊」の取り組みについてご紹介していきたいと思います。

これからお話を伺う田中さんは、加賀市で現在進行中の10個のプロジェクトのコーディネートや、ご自身による観光プロジェクト企画を行なっています。

協力隊となりまもなく1年が経つ田中さんに、協力隊に応募しようと思ったきっかけや、どんな取り組みをしているか、活動を通して感じること、今後のご予定についてお話を伺いました。

加賀市地域おこし協力隊/田中美紗斗(たなか みさと)さん

1992生まれ。東京出身。早稲田大学卒。大学時代に「持続可能な開発」を学び、環境保全や地域開発、経済発展などを複合的に考えるゼミやサークルに所属。大学卒業後は外資系の広告会社に就職し、プランナーとして2年間勤務。先祖が北前船主を務めていたこともあり、加賀市にある祖父母の元を幼い頃から訪れていた。そんな馴染みのある地域で現在は、地域資源を活かした事業の立ち上げを行っている。

まずはじめに、田中さんが地域おこし協力隊に応募しようと思ったきっかけを教えてください。

所縁のある地域と深く関わりながら働きたいと思ったんです。

出身は東京なのですが、先祖が北前船主で加賀市にルーツがあり、代々引き継がれてきた築130年の家には祖父母が住んでいました。幼い頃から夏休みやお正月の度に訪れていたので、加賀市は馴染みのある場所だったんですよね。

昔から通ってはいたものの どこか保守的な印象があった加賀市でプロジェクトが動き出すことを知り、はじめはとにかく驚きました。説明会で直接話を聞き、ワクワクしたのを覚えています。地域資源の掘り起こしをしていくことは まさに先祖がしていたことに似ていたり、自分のバックグラウンドから地域に関わる仕事をいつかしたいと思っていたので、使命感のようなものも感じたんだと思います。

あとは海が好きなので、海の近くで暮らしてみたいと思っていました。

写真提供:田中さん

ちょうど良いタイミングで募集がはじまったのですね。前職はどんなことをされていたのでしょうか。

外資系の広告会社でプランナーとして働いていました。

大学時代に「持続可能な開発」を学んでいたこともあり、社会の課題を解決するという視点でも物事を考えていたんです。ちょうどその頃に「ソーシャルデザイン」という言葉をあちらこちらで見かけるようになったのですが、私自身も「コミュニケーション」を通して社会や生活を豊かにしたいと思い、大学卒業後は外資系の広告会社に就職しました。

プランナーをしていた頃は、企業のブランドづくりから販促プロモーションという川上から川下まで幅広く関わるような業務を担当していたのですが、これからは組織の一部として働くだけではなく、自分自身で生きていくスキルを身につけることも大切だと思い、このタイミングで新たな環境に挑戦することを決意しました。

前職時代も楽しかったので、もう少し経験を積んでみたかったな〜という気持ちは少なからずあったのですが、ちょうどプロジェクトの立ち上げ期だったこともあり 思い切って応募しました。

 

加賀市では現在、10個のプロジェクトが進行中。

地域おこし協力隊として、プロジェクトに関わって約1年。これまでどのようなことをされてきたのですか?

他の協力隊が取り組んでいる10個のプロジェクトのコーディネートを行っています。協力隊の募集段階から関わり、現地のパートナーの方と一緒にプロジェクトのテーマを設定してきました。

茶産地や湯治文化の再興、コミュニティ活性化の起点となるカフェの開業など、起業へ向けて事業を進めている協力隊のみなさんに コーディネーターとして関わりながら、今年からは自分自身も観光に関するプロジェクトの企画を進めています。例えば「粉わかめ」などの地域産業や伝統文化を、訪れた方や地元の方が楽しめる体験コンテンツのひとつにしていきたいと考えています。

田中さんご自身もプロジェクトを持たれているんですね!

はい! “加賀を輝ける場所” にしていきたくて(笑)。「暮らすように旅する、旅するように暮らす。」ということをテーマに、観光客や旅人という視点だけではなく、地元の方々も一緒に楽しんでもらえるような企画をつくっていきたいと考えています。

写真提供:田中さん

そのひとつとして提案したいのが、「ウェルネスツーリズム」です。普段の生活から少し離れて、自分自身を振り返る時間をとるために加賀に滞在してもらえないかと考えています。加賀は温泉やおいしいご飯を食べられる環境が整っているので、+αでまちを楽しみながら心身ともにリフレッシュできるような体験プログラムをつくっていきたいと思います。まだまだ始まったばかりですが、今年中に一度モニターツアーを開催する予定です!

こうした新たな「観光」を通して外から訪れる方や異なる価値観の方と地域の方々が交流することで、地元の方にとっても、加賀の魅力を再発見し捉え直すことにつながるのではないかと思うんです。

一緒に「温泉コモンズ」プロジェクトを進めている並木さん(左)

加賀を輝ける場所に・・!ステキですね(笑)。地元の方々の反応はいかがでしょうか。

活動内容を理解してもらう難しさを少し感じています。全てが新規事業になるので、なかなか自分たちで発信もできていなくて。そのため、誤解を招いてしまうこともありますが、そういった時は行政の方もサポートしてくださるので心強いです。

だからこそ、理解してくださる方が現れたり、一緒に取り組んでくださる方が見つかったりすると本当に嬉しいですね。私自身は暮らしている地域で事業を進めていけるので、少しずつ顔がつながり地域と濃い関係性が生まれていると感じています。

都会で起業するのと地域に入って起業するのでは関わる人も違いますし、巻き込み方や巻き込まれ方も異なるので、地域の方々とのコミュニケーションは慎重に行っています。最初は既にあるコミュニティに混ぜてもらいながら関係性をつくり、それから「自分がやりたいこと」を発信していくなど、段階を経て関わることが大切だと思っています。

赤瓦の屋根が特徴的な加賀のまち並み。(写真提供:田中さん)

 

改めて、日々の活動や加賀での暮らしを通して感じることはありますか。

ライフスタイルが変わり、暮らしを楽しむようになりました。

働く時間については東京にいた時とあまり変わらないか、むしろ忙しくなったんじゃないかと思いますが、働く場所や時間など自分で決められることが多いですね。定例ミーティングがある火曜日と金曜日以外は基本的にどこで働いても良いことになっています。それから・・これは加賀に住んでいる特権だと思うのですが、最近は毎日近くの温泉に浸かっています(笑)。

あとは、趣味や考え方もこちらに来て変わったように感じますね。以前は、休日も常に新しい情報や刺激を求めてイベントなどに参加していたんですけど、「今ある環境の中でどのように楽しみを見出すか」という視点で物事を考えるようになりました。自分がいる半径数メートルの範囲からいろんなことに気づけるようになった気がしています。

そういう風に考えるようになったのも、加賀の暮らしには気持ちが晴れる瞬間がたくさんあるからかもしれません。身近に温泉があることもそうですし、自然を感じる瞬間が日常にあるんですよね。車を運転しながら思わず「今日の白山すごくきれい!」と口にしてしまうことがあるくらい(笑)。そんな風に自分がこれまで加賀でしてきたような体験を、観光の企画を通してつくっていきたいです。

思わず見とれてしまう白山。(写真提供:田中さん)

 

かつては祖父母の家を「訪れる」場所だった加賀が「暮らす」場所になり、町に主体的に関わることのおもしろさを日々感じています。

昔はこの地に親族以外の人のつながりはなかったのですが、今はUIターンの方も少しずつ増えていますし、協力隊員同士も交流があり、お互いに切磋琢磨できていると思います。それと、こちらに来てから公私共に歩んでいきたいと思えるパートナーにも出会え、暮らしがますます楽しくなりました!

先祖である北前船主のように、いつか加賀を拠点にしながら各地を行き来しつつ地域の情報や魅力を交換し、一緒に仕事ができたらいいなと思っています。

温泉街の古民家をリノベーションした地域おこし協力隊のオフィスにて。

ご先祖もきっと喜ばれますね! それでは最後に、これから地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージをお願いします。

「地域おこし協力隊」もいろんな募集要項があるとは思いますが、将来的に起業することを考えた時に、一定の保障を得ながら新たなことにチャレンジできるのは 良い環境だと思います。少なくとも任期が終わった3年後に自分が “こうなっていたい” とか “こういうことをしていきたい” というビジョンがあれば、選択肢として考えみるのもいいかもしれません。

ご自身の将来についてゆっくり考えたくなったら、加賀の温泉に入りに来てみるのもおすすめです。ぜひ一度、遊びに来てください!

(文責・並河杏奈)