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特使のご紹介

林 俊伍さん

林 俊伍

金沢市出身。平成28年に愛知県からUターンし、ゲストハウスを開業し、現在は一軒家貸切型を含め複数のゲストハウスを経営し、外国人を含む多くの観光客が宿泊。

インタビュー

林 俊伍さん
金沢市出身。株式会社こみんぐる 取締役。大学卒業まで地元金沢で過ごし、大手商社への就職を機に東京・名古屋で計7年を過ごす。2016年に金沢へUターンし、妻の佳奈さんと株式会社こみんぐるを創立。「100年後も家族で暮らしたい金沢を創る」を掲げ、宿泊業をメインに行いながら、東京と金沢で移住者・移住希望者同士の交流会などの企画・開催も行う。

100年後も家族で暮らしたい金沢を目指して

妻で会社の代表である林佳奈さんとともに、金沢で町家を使った一棟貸切の宿やゲストハウス、ホテルを経営する林さん。都会での暮らしに違和感を感じ、2016年に金沢へUターン。金沢の地域社会の持続的な発展に貢献したいと、佳奈さんと株式会社こみんぐるを立ち上げ、宿泊業を通じて、国内外に金沢のファンを増やしています。また、金沢へ移住してきた人、移住を考えている人、地元の人とをつなぐ活動も行なっています。

都会での暮らしに違和感を感じる日々。妻の後押しでUターンを実行

林さんが生まれ育ったのは、兼六園のほど近く。金沢らしさが息づく街なかです。就職を機に、東京で2年、名古屋で5年暮らしました。金沢へのUターンを決めた理由は、何だったのでしょう。

「都会は、四季がないなって感じたんです。金沢にいたら、季節ごとに食卓に並ぶ料理も変わるし、景色も変わる。山を見たら、紅葉していたり、雪が積もっていたり。風だって変わるし、匂いも違う。都会にいると、そういうことが感じられなくて。なんだか、自分がどんどん人間じゃなくなっていくような感じがしたんです。金沢にいるときは意識していなかったんですが、思えば金沢ってすごくいいとこだったんだなって」

いずれ金沢へ戻りたいと日頃から話す中で、愛知県出身の佳奈さんの了承も得られた林さん。ですが、実際に移住を実行するまでには、少々時間がかかったそうです。

「教員採用試験に受かったら、金沢へ戻ろうと考えていたんですが、なかなか受からなくて。3年経った頃、妻にいいかげんにしろと、怒られました(笑)。妻は金沢では自分で商売をしようと思っていたので、準備をしながら周囲にも金沢へ移住することを話していたのに、なかなか僕が決断しないものだから(笑)」

結婚していることへの責任感から、教員という立場を得て堅実に移住を進めなければいけないと思い込んでいた林さん。でも当の佳奈さんには、そんなことへのこだわりは一切なく、そんな佳奈さんの後押しで、ついに金沢へ移住することになりました。

しごとは「かなざわのともだち業」。世界中に、金沢のファンをつくる

故郷である石川県・金沢、子どもの頃から続けている柔道、そして教育。この3つのキーワードが林さんの中で、学生時代から自分のテーマとしてあったそうです。

「いずれ自分も起業したくなることは分かっていたので、妻の起業を自分も一緒に手伝おうと思ったんですが、臨時採用で教員をやりながら、柔道教室の先生をするっていう生活も考えたり。名古屋でお世話になった経営者の先輩にそのことを相談すると、中途半端は絶対うまくいかない、退路を断ってやりなさいと言われました。それまで、柔道、教育については何かしら携わっていたのですが、石川県・金沢についてはまだ何もしていない。先輩のアドバイスもあって、移住後はもう振り切って、金沢のためになることをする!と決めたんです」

佳奈さんと立ち上げた会社「こみんぐる」のメイン業務は、宿泊業。金沢市内で町家を改修した一棟貸切の宿「旅音(たびね)」やゲストハウス、ホテルを経営しています。でも、林さん夫妻にとって、これはあくまでも手段とのこと。

金沢の町家をリノベーションした一棟貸切の宿「旅音」。子供のいる家族連れや、海外からの旅行者に人気。

「僕たちの目的は、金沢の地域社会の持続的な発展です。目指すのは、『百年後も家族で暮らしたい金沢』を創ること。僕たちの宿や、活動を通して、金沢のファンが世界中にできたらきっと、50年後も100年後も、金沢にみんなで集まっておいしいお酒が飲めるかなって思っています」

「旅音」では、縁側でゲストと地元メンバーとで利き酒会が開かれることもしばしば。

自分たちの業種は「ともだち業」だと話す林さん。ともだちに会うのが旅の目的となるように、金沢へ出かける目的が、「旅音」だったり、林さんたちが企画したイベントだったり。そんな「金沢へ来る理由=ともだち」を目指しているそうです。

「こうした活動を通して、県外から金沢へと来てくれたゲストが、将来金沢に住んでみたいと思ってもらえたら」と考える林さん。SNSなどを通じて、情報を積極的に発信しています。

「ともだち」と過ごすようにスタッフや地元のメンバーたちと、金沢の滞在を楽しむ「旅音」の宿泊ゲストたち。ゲストにとって、普段の金沢を垣間見ることのできる貴重な体験。

移住者・移住希望者をつなぐ「よそもん会」

「こみんぐる」の活動に、「よそもん会」があります。林さん夫妻のように、金沢に移住して来た人「よそもん」たちのネットワーク。Facebookを介して、現在(R2.1.16現在)150名ほどが「よそもん会」のメンバーとしてつながっているそう。これまで、金沢と東京で飲み会を主に開催しています。

金沢で開催した「よそもん会」の様子。みんなでBBQを楽しんだ。

「東京では石川県出身者を中心に、60人ほど集まりました。話題はいろいろですが、やっぱりみなさん気になるのは仕事のこと。金沢で仕事をするには、どんなことが求められるんだろうとか、どんなスキルがあったらいいんだろうとか。勉強会も兼ねて、みんなでワイワイ盛り上がっています」

この会とは別に、同じく東京で「二拠点居住を考える会」も開催したそう。二拠点居住とは、東京に拠点を残しつつ地方にも拠点をつくり、仕事とプライベートのバランスをとりながら暮らしていく新しいライフスタイル。特に、東京での収入が高く、活躍している人が、金沢への移住後もその収入を保ち続けることは難しいのが現状です。その解決策を探るため、「こみんぐる」主催で二拠点居住をテーマに勉強会を開催しました。40人ほどが集まったそうで、関心の高さがうかがえます。

東京で開催した「二拠点居住を考える会」の様子。

「金沢への移住を考える人にとって、帰りたいけど仕事をどうするかは、共通の悩み。あとは人脈ですね。みんな、金沢でのネットワークがないって言うんですよ。僕たちが『よそもん会』を開いている理由はそこにもあります。僕も県外からUターンしてきた、よそもんだったから分かるんですけど、いざビジネスしようにも、最初は仕事のネットワークがないんですよね。だから、その辺も何とかつなげてあげられたらいいなって思いますね」

金沢での「よそもん会」も、移住者同士のネットワークづくりに一役かっています。参加者は、移住者である個人事業主や会社の経営者、転勤してきたサラリーマン、中にはよそもんとつながりたいという、根っからの地元民も。ここでつながった仲間同士、いくつもの新たなネットワークが生まれているそうです。

金沢の本物の魅力を、ゲスト・移住希望者へきちんと伝えたい

「石川県内で考えると、金沢は移住者にとって入り込みやすい街だと思いますね」と林さん。移住仲間から、こんな話を聞いたそう。
「金沢で暮らす移住者で料理人の友人が、金沢はチャンスに溢れているって言っていました。僕もそう思います。金沢は、新幹線による人の大きな流れができているけど、街自体はコンパクトでちょうどいい。競合もそれほど多くない。伝統と地域の文化が今も息づいていて、いいものにお金を使う人たちもちゃんといる。ビジネスを考える余地は、まだまだあると思います。そして彼は、なにより金沢が好きだとも言っていました」

金沢が好きといえば、林さん自身もそう。その魅力の一つは、「職人」が多いことだと言います。
「金沢には料理とか芸事とか、それぞれの職人さんが今もたくさんいます。それが街の土台となっているように思うんです。彼らが生み出す、本物の良さがにじみ出ているというか。オーセンティックな街、本物が今も根ざしている街っていうのが、金沢の魅力です。だからこそ、見せかけの観光地っていうか、消費される街にはなってほしくありません。観光向けの場所やお店で写真を撮って、金沢ってなんか微妙だよねとゲストに思われるのは、悲しい。僕らが暮らしていることが、金沢の前提にあって、そこを訪れてもらうことが本来の旅のカタチだと僕は思います。100年後も廃れることなく金沢で人々が暮らしていて、そんな金沢を魅力に感じて100年後も旅行者が訪れる。100年後も家族で暮らしたい金沢を創るっていうビジョンには、そんな思いを込めています」

「旅音」に宿泊したゲストと地元のメンバーとで楽しんだ「お好み焼き会」。飾らないあたたかなおもてなしが、金沢のファンづくりへとつながっていく。

「旅音」では、ゲストが希望すれば、スタッフや地元の人との交流会も開催します。地元の参加メンバーのLINEグループには現在(R2.1.16現在)200人ほどが登録されていて、その中から都合のつくメンバーがゲストと一緒におにぎりを作ったり、たこ焼きを焼いたり、地酒を利き酒したりするそう。「旅音」のコンセプト「金沢で暮らすように旅をする」そのままに、ゲストは観光用に用意されたものではない、普段の金沢での暮らしを体験することができます。海外からのゲストの参加希望も多いとか。

また最近、ゲストのために「旅音」のスタッフたちがお気に入りの飲食店を紹介したガイドマップも作成。家族連れ向けや外国人向け、ペット連れ向けも用意しました。

金沢の方言「召し上がれ」の意味である「食べまっし」をタイトルにした飲食店のガイドマップ。

「なんだかんだ言って、金沢の一番の魅力はやっぱり、ごはんがおいしいこと!うちの妻も、『金沢に胃袋をつかまれた』って言っています」。
移住には、家族の同意が必要。そのためにも、金沢で暮らす自分たちが心からすすめたい、おいしい金沢を紹介しているそうです。

移住を希望する人へ、林さんからアドバイス

Uターンしてよかったと、林さんは振り返ります。

「移住するには、手放すことがすごく大事だなと実感しています。僕の場合は、教員になることを手放しました。そしたら今、母校の金沢大学の柔道部の監督をしていて、さらに大学コンソーシアム石川を通じて教育に携わることにもなって。気がついたら、石川・金沢、柔道、教育の僕のテーマ3つ全部に手が届きました。確かに、都会で働いていた方が、収入は高かったでしょう。でも、今の方が豊かで、幸せだなって思います」

今握りしめているものを、手放してみる。これは、なかなか勇気がいることです。情報やモノに溢れる都会で、自分にいるもの、いらないものを見極めて手放していく。「思い切って手放してみると、意外に楽しくて、心が豊かになっていく気がするんですよ」と、林さんは言います。

「自分にとっていらないものを手放していって、残ったものの中に『金沢への移住』があったら、きっとそれは本当にあなたがやりたいこと。真剣に移住を考えてみてください。『よそもん会』で、待っています!」

株式会社こみんぐる/旅音ホームページ