» 細谷 夏実

特使のご紹介

細谷 夏実さん、齋藤 雅代さん

細谷 夏実さん(左)
毎年、ゼミの活動で穴水町を訪問。大学の文化祭でも能登を紹介し、特産品などの販売を行うブースを出展。

齋藤 雅代さん(右)

インタビュー

細谷 夏実さん(左)
東京都出身。大妻女子大学 社会情報学部 社会情報学科 環境情報学専攻 教授。ウニやヒトデの卵を用いた細胞分裂の研究が専門。ゼミの活動で、能登を訪れたことから、地域との交流がスタート。大学内外で、能登・穴水町の魅力を発信し、学生をはじめ、首都圏で暮らす人と能登・穴水町との接点づくりを行なっている。こどもたちに海の魅力を伝える「海育(うみいく)」活動にも取り組む。

齋藤雅代さん(右)
東京都出身。大妻女子大学 細谷ゼミを卒業後、大手企業にてIT事業、雑誌の編集などに携わり、独立。フランスに渡り、各地をめぐる中で「食とツーリズム」の原点を学ぶ。帰国後、映像の仕事をきっかけに、能登・穴水町に惹かれて移住。地域おこし協力隊として活動した後、「えんなか合同会社」を設立。大学連携のほか、地域の魅力を発信する企画・プロデュースを行う。

5年後でも、20年後でも。私たちの活動がきっかけで、能登・穴水町を選んでくれたら

「私たちの取り組みって、気が長いっていうか。長期計画なんですよ」

そう言って、やわらかにほほ笑む細谷夏実さん。隣には、細谷さんと能登・穴水町との縁をつないだ、教え子の齋藤雅代さん。二人は、能登・穴水町の魅力を首都圏を中心に発信しながら、いつか移住につながるかもしれない、人と地域の一番最初の接点づくりを行なっています。

ゼミでの取り組みを通して、首都圏に能登・穴水の魅力を伝える

東京の大妻女子大学の教授である細谷さん。専門は海の生き物を使った研究です。東京大学の教授らと、子どもたちへの海の生き物のガイドブックをつくる活動を行う中で、金沢大学から能登の海のガイドブックをつくる誘いを受け、2015年に初めてゼミの学生を連れて能登を訪れました。

「齋藤さんが穴水町に移住していたことを知っていたので、じゃあ最終日に穴水町に立ち寄ろうかということになって。行ってみたら、すごく良いところで。2年目からは、穴水町での活動をもっと増やそうということになりました」

穴水町役場の協力もあって、翌年からは毎年、夏には齋藤さんのアテンドのもと穴水町と能登町でゼミ合宿を実施し、秋には学園祭でゼミ生たちが「能登展」を開催。「能登展」では、ゼミ合宿での活動報告や特産物の販売を通して、能登・穴水の魅力を発信しています。

穴水町での細谷ゼミ・ゼミ夏合宿にて。穴水町のシンボルでもある、伝統漁「ボラ待ち櫓漁」に使う櫓の見学に向かう学生たち。

2019年の「能登展」の様子。ゼミ合宿に参加した学生たちがつくった「鹿波椿茶」も販売。

「今では能登展を楽しみに訪れてくださるリピーターの方や、これをきっかけに能登へ旅行へ出かけたという方も現れて。うれしいですね」

こうした取り組みが4年目を迎えた2018年、穴水町と大妻女子大学は「包括連携協定」を結び、地域と大学とが、地域間交流、地域資源の活用、人材育成を進めていくことにもなりました。

ゼミ合宿を体験した学生たち自身も能登・穴水町の大ファンに

2019年8月、細谷ゼミは5回目となるゼミ合宿を、穴水町と能登町で行いました。海の生き物や海藻の観察だけでなく、地域の方が営む農家民宿に宿泊して、地元の人たちと交流してBBQを楽しんだり、能登の食文化を学んだり、マリンアクティビティを楽しんだり!能登・穴水町を満喫しました。参加したゼミ生は、能登・穴水町初体験がほとんど。

2019年の細谷ゼミ・ゼミ合宿の様子。専門家の方に案内をしてもらい、シュノーケリングで海藻の観察。

写真左から、ゼミ合宿に参加したメンバーの三上怜納さんと柳下なつみさん。

ゼミ合宿に参加した3年生の三上怜納さんは、「能登展」のポスター制作も担当しました。
「穴水は、海がきれいでした。坂を下るごとに、海がどんどん近づいてきて。そのきれいさに感動しました。合宿でメンバーが撮った写真を使って、「能登展」のポスターを作ったんです。言い方は悪いかもですが、能登なら、プロじゃなくても、学生でもすごく素敵な写真が撮れるんです。場所を選ばなくても、ぱっと一枚撮っただけの写真がきれい。そんな場所は、東京にはないなと思いました」。

三上さんが作成した2019年の「能登展」のポスター。学生が撮影した写真を使ってデザインした。

同じく3年生の柳下なつみさん。夏の合宿に感動して、冬に穴水町で行われるイベント「雪中ジャンボかきまつり」の大妻女子大学ブースの運営にも参加することに。
「住宅地に住んでいるんで、海や自然にふれあうってことがめったにないんです。だから、飛行機がのと里山空港へ降りていくときの窓の景色に、なんだこのきれいなところは!って、そこでまず感動しました。合宿中、海を一人でぼーっと眺めることがあって、その時もすっごいきれいだなって思ったんです。こんなにもすばらしい海があるにもかかわらず、能登の人口が減っていってる。地域を活性化させるために、私たち若者が、しっかり考えていかなきゃいけないんだな。そんなことも思いました」。

ゼミ合宿での「鹿波椿茶」づくりの様子。

合宿では、鹿波地区に自生する鹿波椿(カナミツバキ)から絞ったオイルを使ったマッサージオイルづくりや、葉を使ったお茶づくりも体験。
学生たちも企画・PRに携わってきた「鹿波椿茶」は、齋藤さんの発案で2019年に地元の穴水高校と鹿波椿保存会の協力のもと商品化され、「能登展」では合宿のときに自分たちで作ったお茶を販売しました。

渋みや苦味が少なく、さらりと飲みやすい「鹿波椿茶」。ジャスミン茶やハーブティーのような感覚で楽しめるとのこと。パッケージデザインもかわいい。

「私の中で、能登に行くまで、石川県イコール金沢でした。ゼミ合宿みたいに、誰かが企画して連れて行ってあげないと、能登や穴水町を知る、ふれる機会ってないですよね。特に現代って、こういう体験がどんどん減っているんじゃないかなって思うんです」と柳下さん。

ゼミ合宿に参加したOGが、友人や家族を連れて、再び能登・穴水町を訪れることもあるそう。合宿での体験を通して、彼女たちの中に能登・穴水町の魅力はしっかりと刻まれ、彼女たちからさらに外側へと拡散し始めました。

穴水町の海は、宝の海

細谷さんと穴水町との縁をとりもった齋藤さんは、2014年に穴水町へ移住しました。現在は、東京にも拠点を置きながら活動しています。
仕事でたまたま訪れた、縁もゆかりもない穴水町に移住を決めた理由は、能登半島の内側、地元では内浦と呼ばれる、穏やかで豊かな穴水の海だったそうです。

「目の前に広がる、波が静かで水の透明度も高い、湖のような海の中には、カキやウニやサザエやナマコがいっぱいで、ボラも泳いでいて。小さな湾の中に、食が宝物のように詰まっている、そのことに感動したのを今でも覚えています。食と地域の人の暮らしが密着していることに豊かさを感じて、ほんとうに素敵だなと思いました。でもそれが廃れつつあるという現状を知ったとき、何か自分にできることはないかと思ったのが、移住へとつながるきっかけだったと思います」

穴水町初の地域おこし協力隊として、2014年に移住してきた齋藤さん。最初は、移住相談窓口を担当。後に地域の飲食店や、サービスエリアの立ち上げに携わります。
「地域で仕事をつくる必要性を感じました。でもそれが本当に大変で。模索しながらやっていく中で、人と人を結びつける、都心と地域を結びつける、そういう役回りを自分はやりたいと思ったんです」
そして齋藤さんは、能登・穴水の魅力を企画・プロデュースする「えんなか合同会社」を立ち上げます。

今取り組んでいるのが、能登でのスローな旅を提案する「ノトリートツアー」。
「自分自身が都心で働いていて疲れちゃったときに、気軽にスイッチオフできる場所を作りたいなっていう思いがありました。能登こそが、まさにその場所」
リトリートとは、日常を離れてストレスの少ない環境でゆっったりと過ごし、自然との調和の中で身体や心のバランスを調整してリフレッシュすること。

「能登全域が、リトリートできる場所だと思っています。このツアーをきっかけに能登を訪れてもらえたら、あとはヨガをしたり、自然の中を歩いてみたり、酒蔵をめぐってみたり、自分で好きなように組み立てることができるんです。そんな場所として、能登を知ってもらいたいんです」

2019年は台風と重なってしまい、一度は中止を決定しましたが、参加者からの熱烈なオファーで予定を変更しながらも開催。とても好評でした。

二人が魅了された穴水の海のすばらしさを、地元の子たちへ

細谷さんは、穴水町の子どもたちへの「海育(うみいく)」にも取り組み始めています。
「私も齋藤さんも、こんなにもきれいで豊かな海があるのに!って思うんですけど、穴水町の地元の子たちにとって、海がきれいなのは当たり前のこと。その貴重さに、気がついていないんですね。小学校の先生から、お魚を食べない子がいるとも聞きました。だから、地元の子どもたちに、海や、海の生き物に興味を持ってもらうきっかけを作らないとと思ったんです。自分たちの海に誇りを持って、大人になってほしいんです」

細谷ゼミ・研究室の前にて。穴水小学校の子どもたちが描いた絵のタペストリーや、穴水町出身の力士遠藤のポスターなど、穴水への愛が溢れている。

地元の子どもたちに描いてもらった、海の生き物の絵でカードをつくったり、のれんを作ったりして、「雪中ジャンボかきまつり」に展示。かきまつりには、名産であるナマコやサザエに触れるコーナーも設けました。
「一度触ったものや、体験したことは、将来なにかのきっかけになるんじゃないかなって思うんです。小さいときにナマコ触ったなって思い出して、じゃあ久しぶりに穴水町へ行ってみようかなって思ったり」。

カキ棚が目の前にある向洋小学校で、地元のカキの養殖を見学したときの絵を絵葉書にする取り組みや、穴水小学校で、細谷先生が直接子どもたちに里海の魅力を伝える授業を行う取り組みも始まりました。

向洋小学校の3年生とつくった絵葉書。カキの養殖を見学して学んだことが描かれている。

「穴水の海が素晴らしいことを知らないまま大人になって、地元を離れてしまうのは、あまりにも残念です。東京の方がおもしろそうって思うかもしれないけど、いや、外からみたら実は能登の自然の方がすごいんだよってことを子どもたちに伝えたい。そうしたら、一度は地元を離れたとしても、20年、30年先に、地元へのUターンを考えてくれるかもしれないなって」。

細く長く。能登・穴水への移住のきっかけづくりを続けていきたい

大妻女子大学と穴水町との「包括連携協定」締結を記念して行われた、大学での公開講座「能登の里海スクール」には、たくさんの人が訪れました。中には、能登への移住に興味を持ち、相談をしにきた人も。ちなみにその方は今、そのときのことが後押しとなって、穴水町へ移住して地域おこし協力隊として活動されているそうです。

「ガイドブックを一緒につくりましょうと声をかけてくださった金沢大学の先生や、齋藤さんとのご縁が広がって続けてこられました。このままずっと、能登・穴水町とのご縁を長く続けていきたいなと思っています」と細谷さん。

「学生時代に、海や、海の生き物にふれる楽しさを先生から教えてもらいました。こうして穴水を通してまたつながったご縁を、今度は地域やこどもたちのためにつなげていきたいなと思っています。一人ではできないことでも、色々な方とのつながりで、大きな輪が広がっていくことを楽しみにしています」と齋藤さん。

「5年後、10年後くらいに、あのとき能登に行ったからとか、あのとき学園祭で見たからとか、二人の取り組みの何かがきっかけで、石川県や能登・穴水町へ移住を考える人がでてきてくれたら」そう二人は話してくださいました。