テラスの大きな窓の先に広がる波穏やかな入り江。その日の天気と時刻、四季で表情を千々に変える自然は、巨匠のどんな名画もかないません。その景色を独り占めし、晴れた日には飼い犬を連れてマイボートで釣りに出かけたりもしますが、なんにもしないでボーッと海を眺めているだけでも楽しいです。

現在の暮らしを僕は「三流の都会より、一流の田舎」と表現しています。東京の映像製作会社に勤め、なに不自由ない都会生活を送っていた僕が能登への移住を決断したのは、2007 年3 月に起きた能登半島地震がきっかけです。

穴水湾を見下ろす自宅でネコたちとくつろぐご夫妻

この自宅は、当時は別荘として使っていました。ちょうど滞在中に震度６の強震に見舞われ、急ぎ東京に戻ることに。その道すがら目に飛び込んできたのが、軽トラから降りて手ぬぐいを振る一人の高齢者。道路にできた大きな段差に車が落ちないよう、不器用な手つきで懸命に交通整理をしていたんです。家から畳を持ち出し、段差の箇所に敷いている人もいました。

渋滞にいらついていた自分が恥ずかしかった。そして、自分のことは後回しで、他人を思いやる能登の人に心が震え、翌年春、能登に移住したのです。

以来、年々深まるのが、真の豊かさとはお金では買えないものという実感です。近所の人と猫談議に花を咲かせたり、趣味を通して交流を深めたり、そこにはいつも笑顔の輪が広がります。ぎすぎす、ざわざわした都会では味わえない、人のぬくもりと真の絆こそ宝物だと思います。

椿崎区では海岸清掃や「移住体験ツアー」を恒例行事として開催