» 次世代へ贈る石川の山の恵み~いしかわの林業の魅力~

次世代へ贈る石川の山の恵み~いしかわの林業の魅力~

木材コーディネーター、森林施業プランナーとして林業に携わり、山林の間伐(育成中の木を間引いて、木が成長しやすい適正な密度に調整する作業)・主伐(木材となるために成長した木を切って収穫する作業)を行う計画の立案から現場での監督、その後の手続きに至るまでを担当する砂山さん。プライベートでも、「もりラバー林業女子会@石川」代表として、「たのしいとカワイイとおいしい」で石川の林業を応援する活動を行っています。

きっかけは森林ボランティア。林業への興味・想いが次第に強くなって

父の影響で、登山やキャンプなど、遊ぶ場所として山が好きだったという砂山さん。とはいえ、金沢へ嫁いできた頃は、まさか将来、林業に従事するとは夢にも思っていなかったといいます。
林業に興味を持つようになったきっかけは、登山仲間に誘われた白山の外来植物を除去する「森林ボランティア」。そこで、白山などの高山だけでなく、「里山」と呼ばれる身近な山も大変なことになっているという話を聞きます。

「その話を初めて聞いた時、緑豊かな山がこんなにいっぱいあって、水もおいしいのに、何が大変なんだろう。何が不足しているんだろう?って、さっぱり理解できなかったんです。それが知りたくて、里山のボランティアをしてみることにしました」

そこで知ったのは、日本の山の多くは、戦後にスギやヒノキを植林した人工林であり、定期的に間伐などの手入れが必要だということ。手入れがされない山は、生い茂った葉が光を遮り、植物も生き物も育たなくなってしまうこと。植物が生えなくなった山は保水力を失い、土砂崩れなどの災害を招きかねないということ。そして一見、緑豊かに見える山の多くが、手入れがされていない状態で放置されていること。山での労働力はボランティアに頼る割合も高い…といった、里山の現状でした。

「ボランティアの善意に頼っていたのでは、いつか手入れをする人がいなくなって、山がだめになるかもしれない。山が仕事として、きちんとまわる仕組みをつくらなければ、本当の意味で山を守ることにならないって思って。山を仕事にするなら、林業だ!と。そこで、スイッチが入ったんです(笑)」

とにかく林業のことが知りたくて、金沢市の「金沢林業大学校」の研修生として2年間学んだものの、それでも分からないことがいっぱい。そして、女性だからという壁にもぶつかったそうです。

「さすがにもう7、8年しているので、今はそんなことはなくなりましたが、当時はあからさまに戦力外通告されました。最初は、木を伐採する、いわゆる木こりになりたかったんですが、やっぱり男性と比べると体力的に劣っているので。生産性や効率が重要な、現場では受け入れてもらえないんですよね。『お前と一緒に林業するやつはおらん』なんて言われたことも」

それでも、「林業は、未来にとって大切な仕事」という熱い想いは消えなかった砂山さん。なにか林業に関わることはできないかと考え、始めたのが「もりラバー林業女子会@石川」でした。

「全く山のことを知らなかった私が教えてもらったのと同じように、私も人に伝えることならできるかなと思って」

ボランティアや、農家での体験イベントなどを通じて、気負わず楽しみながら、山のこと、林業のことを女性メンバーたちと学ぶ活動は、砂山さんを中心に現在も継続中です。

道をつけ、いよいよこれから間伐作業が行われる現場。作業前なので、葉が茂って林の奥は暗い。

長年の想いが通じ、いよいよ林業を仕事に

林業女子会を通じて、林業への知識や理解を深めていった砂山さん。林業関係のイベントや講演会にも積極的に参加するなか出会ったのが、現在の砂山さんの上司である「株式会社中野」吉村 兆さんでした。

「今までの林業とは、ちょっと違うことをしてるなっていう印象でした。私がこうしたらいいんじゃないかなって思っていたことに、彼はすでに取り組んでいて。この人と一緒に仕事をしてみたい!って思ったんです。そこからは、猛烈プッシュです(笑)。2年くらい経って、ようやく声をかけてもらって、入社したのが2016年。あとで聞いたら、女性だし、住まいが金沢で通勤に1時間かかるしということで、まさか私が本気で働きたいと言っているとは思っていなかったそうです(笑)」

砂山さんが所属するのは、「木材事業部」。間伐などの作業を行う計画を立てて、山の所有者である山主(やまぬし)に提案し、了承を得られれば山を預かり、作業を行うといった業務を行っています。
山で木を伐るまでには、山や周辺の調査、機械やトラックを入れるための道をつける計画、木材の生産量や売り上げ、工事費の見積もり、各種申請、作業後の山の将来に向けての計画など、実に多くの工程があります。
計画に関わる事務作業と、現場での作業が計画通りに行われているか監督するのが、砂山さんの主な仕事。

「山で作業ができるようになったら、実は7割の仕事が終わっている状態なんですよね。そこにたどり着くまでに、やらなきゃいけないことがものすごくあるんですよ。私、数字が苦手だからついてくのが大変なんですけど(笑)。経験も浅いので、頼れる上司や先輩、現場の人の意見を聞きながら提案書をつくっています」

山仕事の道具が描かれる愛用の手ぬぐいを手に満面の笑顔!背後には、山から伐り出したばかりの木材たちが積まれる。

「現場が大好き!」な砂山さんのある日のスケジュール

住まいのある金沢市から事務所のある志賀町までは、「のと里山海道(さとやまかいどう)」という自動車専用道を使って約1時間。朝7時に家を出て、日本海を眺めながらの気持ちの良いドライブです。

8時始業。午前中は事務作業を行います。メールの対応や、測量のデータを元にソフトで図面を作ったり、申請の手続きを行ったり。他にも細々とした雑用を片付けて、昼食。現場へ出ない日は、午後も同様に事務作業を行います。

週2、3日は、午後から現場へ出かけます。13時頃に事務所を出て、現場へは車で1時間ほど。

現場では、図面通りに道がついているか、材木が計画通りに伐り出されているかなどをチェックします。

現場の担当者と話すのも大切な業務。困ったことがないかをヒアリングし、もしあれば持ち帰って部内で相談、解決し、スムーズに作業が進むようサポートします。

「砂山さんと一緒に仕事して4年かな。こんにちは!っていつも元気に声かけてくれて。現場が明るくなるんですよね。彼女、こう見えてすっごい勉強家なんですよ」と、現場の担当者。砂山さんの真摯に業務に取り組む姿勢に、現場からの信頼も厚い。

「現場へは、時間があれば毎日出たい!正解は現場にあるなって思うんです。机でうんうん考えてても、なかなか答えは見つからないけど、現場で聞いたり教えてもらったりすれば、解決する。だから、できるだけ現場に行きたいなって思います」

16時頃に現場を出て、17時頃に事務所に到着。片付けをして、帰宅します。

この日稼働していたのは「ハーベスター」という重機。一台で、立木を掴んで付属のチェーンソーで伐倒、さらに枝払いと採寸をして指定のサイズにカットするまでの作業(なんと1台4役!)を行うことができます。

現場担当者と笑顔で話す砂山さん。わきあいあいとした雰囲気。

未来の人に、今当たり前にある山の恵みを届けたい!

念願の林業を仕事にすることができた砂山さん。やりがいを感じるのは、どんなときでしょう。

「車で道を走ってても、山に目がいってしまうんですよね。手入れされていない山は、木が窮屈そうで、かわいそう。仕事が終わったあとの山は、ほんとに綺麗なんです。間伐の仕事させてもらって、木と木の間が空いて、地面に木漏れ日がサーって差しているのを見ると、あぁやったー!って思います。
こうした綺麗な山をつくっていけばいくほど、未来の人たちにいい状態の山を残せます。そのいい状態の山を自分でつくることができるっていうのは、すごくやりがいがありますね。 私たちが過去の人たちにしてもらったのと同じように、自分の仕事で、今当たり前にある山の恵みを未来の人たちに届けられると思うと、もうこれ以上のやりがいはないですね」

では、大変だと思うことは?

「私は事務作業もありますけど、現場の人たちは暑い日も寒い日も、外で作業しなきゃいけないのは大変ですよね」

夏も長袖長ズボンでの作業。山には蚊やブヨ(蚊より小さい吸血性の虫)が多く、虫さされに悩まされることも。また、現場では危険な作業も多い。

「この仕事は、好きじゃないとできないと思います。体力的にもしんどいし、条件がすごくいいというわけでもない。誰にでもすすめられるという仕事ではないかもしれません。
でもやっぱり、山の仕事はいい!日が昇って明るくなったら作業して、夜は暗くなったらおしまい。雨降ってたら危ないから休みのこともあるし、晴れてたら外での作業は気持ちがいいしね。四季のありがたみを感じながら、人間らしい営みをしてるなって思います。家に帰ってからも、家族や趣味の時間がしっかりとれますし」

木の成長、山の環境の変化には長い時間がかかります。砂山さんの手掛けた山が、どういう状態になったのか、思い描いた計画通りになったのか。結果が出るのは、20年後、30年後、もしかしたらもっと先のことかもしれません。

「生きているうちに、結果が見られないかもしれない。でも、今私たちが山にできる最善のことを、精一杯しておかないとって思います。
前の世代から受け継いで、次の世代へ贈るということにやりがいを感じられるなら、こんなにいい仕事はないと思いますよ」

一年前に間伐作業を行った杉林。真っ直ぐに伸びる杉が整然と並ぶ光景は、とても美しい。そして、日がしっかりと差し込み、明るい。

砂山 亜紀子さん

兵庫県出身。登山やキャンプが好きなアウトドア一家に育つ。結婚を期に、夫の地元である金沢へ移住。趣味の登山をきっかけに始めた森林ボランティア活動を通して、林業に興味を持つように。金沢林業大学校2期生として修了後、2013年に木や森が好きな女性たちのネットワーク「もりラバー林業女子会@石川」を設立。石川県志賀町にある株式会社 中野にて、木材コーディネーター、森林施業プランナーとして活躍中。