畑 愛美さん(埼玉県出身)

いつかの夢だったゲストハウスを、能登の小さな町で形に
民泊『&線(とせん)』をオープンしたのは、2025年6月です。実は能登町に移住したのはその少し前で、2023年の6月でした。埼玉県出身の私は、この地で「宿をやりたい」という想いを形にするために、物件を探しながら準備を進めてきました。
友人と会う時に一棟貸しの宿に行くことが多かったことから、ホテルではなく小さな宿の内装に興味を持ち、一人旅でもゲストハウスを選ぶことが多く、こだわりの内装を見たり、オーナーさんや同じお客さんなど知らない人と話すことが好きになりました。
そんな経験から、いつか自分でもゲストハウスをやってみたいという想いはずっと心の中にありました。そして、いろいろな地域を調べたり、ビジネス系の講座を受けたりしている中で、起業家育成プログラム『能登ローカルシフトアカデミー』を紹介してもらい、そのプログラムに参加することになったんです。
そこで、能登で宿をやりたいというビジョンや、地域の人のための場所づくりについてプレゼンをしたところ、思いがけず特別賞をいただいてしまって。その賞が、事業ができたら地域で活動する人を紹介する雑誌の取材を受けられる賞で、「ここまで来たら、もうやらないと意味がないな」と思いました。
能登町は、人と人の距離が近くて、あたたかい場所。特に宇出津は、能登町のなかでもまちなかなので、まちやどとして旅人も地域の人も、自然に縁がつながるような宿をつくりたいと思いました。

震災を越えて、みんなで育てる宿「&線(とせん)」
宿を始めるなら、都会ではなくて、少し余白のある地方でできたらいいなと思っていました。
本格的に移住を考え始めた頃、定住サポートの方に相談しながら住まいや物件を探していたんですが、『すぐに定住するより、通いながらゆっくり探したほうがいい』と止められたんです。でも、短い時間の中で物件を探しても、正直見つかるイメージが全然持てなくて。だったらまず住んでみて、地域の方との関係をつくりながら探したほうがいいんじゃないかなと思ったんです。
何度も足を運んでいるうちに、住む場所を探してくださって、ようやく移住できました。ただ、その半年後に地震が起きてしまいました。お正月で私は実家に帰っていたんですが、借りていた家も2月に帰ってきたときには雨漏りとカビがひどい状態になってしまって、宿どころではなくなってしまいました。
一度埼玉に戻ってお金を貯めてから、また挑戦するのもありかな…と考えていた時に、お世話になっていた方が『なんとかしてあげるよ』といろいろ手を回してくださって、今の建物を紹介していただいたんです。
震災後宿が足りない課題もあったことから、内装はほとんど手つかずの状態でしたが、寝泊まりはできるのですぐに宿としての準備を始め、スタートさせました。今はDIYで少しずつ整えているところです。お客さんを迎えながら修繕を進めているので、来てくださる方が『楽しそう!』と言って手伝ってくれることもあって。いろんな人を巻き込みながら、みんなで宿をつくっているような感覚ですね。
今はまだ設備が十分ではないので民泊という形で営業していますが、将来的にはゲストハウスにして、いろいろなイベントができる場所にしていきたいと思っています。

能登町の人の優しさとたくましさ。帰ってきたくなる理由がある
能登町に住み始めてからは、本当に地域の方たちに大事にしてもらっています。お客さんを紹介してくださったり、地域の方々が集まることもあって、自然と人が交わる場所になっているんです。私がしばらく町を離れていると、『もう帰ってしまったんじゃないか』って心配してくださる方もいて。その気持ちがとてもありがたいですね。
もともと私は海や港町が大好きで、ここでは釣りをしたり、魚を捌いたりと、これまでやったことのないことをたくさん経験しました。自然がすぐそばにあって、暮らしとつながっている感じがとても好きなんです。
それから、能登の人たちは本当にたくましいなと感じます。都会だと、足りないものがあればお金で解決してしまうことも多いですが、こちらでは“ないものは自分でつくる”という感覚の人が多くて。生きる力がすごく強いんですよね。震災前からそう感じていましたが、震災を経験して、さらにその強さを感じるようになりました。
震災のあと、2月に能登町へ戻ってきたときは、この状況で本当にゲストハウスを始めていいのか、正直とても悩みました。それでもお世話になった方々がみんな能登に残っていたので、不安はあったけど、それ以上に“ここに戻りたい”という気持ちのほうが大きかったんです。
私が移住しようと思えたのも、この町の人たちとの出会いがあったから。だから、もう一度みんなに会いたい、この場所に帰りたいと心から思いました。

やりたいことに挑戦できる場所
移住を決めたときに、『能登の暮らしは、決してスローライフじゃないよ』とよく言われました。実際に住んでみると、本当にその通りで。季節に追われて準備することも多く、地域の行事も大切にしながら暮らしていくので、想像していたよりずっと動きのある生活ですね。
都会では感じられなかった四季が、ここでは生き物や植物を通してはっきりと感じます。自然の中で生きている実感があります。
能登町では、いろんな人とつながりながら生きている感覚があります。どこへ行っても、年齢や性別に関係なく誰かに出会って、自然と会話が始まるんです。みんな本当にいい人たちで、しかもいい意味で個性が強くて面白いですよ。
食文化もとても豊かです。海藻の種類が多いことには驚きましたし、発酵食もたくさんあって、これからは自分でも教わったり、試しながらつくってみたいと思っています。将来的には、能登の食材を使ったお土産のような商品も開発して、販売できたらいいですね。
能登には、“やってみたい”と思ったことを形にできるフィールドがたくさんあると感じています。都会と違うのは、同じことをしている人たちとも、ライバルというより仲間のような存在だということ。お互いに応援し合える空気があります。
のびのびと、自分のやりたいことに挑戦できる場所。そんな能登町を選んで、よかったと思えるように、今も挑戦をつづけています。
奥能登民泊宿「&線」 instagram https://www.instagram.com/noto_to_sen/
