岩佐 洸司さん(神奈川県出身)
何度も通っていた能登での縁が今につながる。
僕は神奈川県出身ですが、初めて能登に来たのは9年前です。当時は飲食店で働いていて、能登の新鮮な食材を調達するために訪れたのがきっかけでした。海も山も近くて、魚も野菜も本当においしい土地だなというのが最初の印象でした。ただ、そのときは仕事で来ただけだったので、そこまで深く考えていたわけではありませんでした。
それから3年後くらいに、今度は友人たちと野営旅行をしようという話になり、能登まで来て釣りをしたり、車中泊をしたりしながら数日過ごしました。海で釣りをして、少し車を走らせれば山の景色が広がっていて、自然がすごく近い場所だなと改めて感じました。都会とは時間の流れ方が違うというか、すごく贅沢な時間を過ごせた気がします。
その後、知り合いが能登町に移住したこともあって、会いに行くようになり、だいたい年に2回くらいは来るようになりました。来るたびに地元の人と話したり、美味しいものを食べたりして、能登の人のあたたかさや土地の豊かさを感じる機会が増えていきました。
最初は仕事だったり旅行だったりと、きっかけはいろいろでしたが、何度も来ているうちに知り合いも増えていって、気づけば「また帰ってきたな」と思えるような場所になっていました。能登には自然も食も人も本当に魅力があり、いつの間にか自分にとって特別な場所になっていました。
能登の食材が導いてくれた新しい挑戦。
2年くらい前に東京の飲食店で働きながら、レンタルキッチンを借りてフルコースを振る舞うイベントをやっていました。そのときに、能登の食材を仕入れていたのがきっかけで穴水の方と知り合って、「穴水でチャレンジショップの募集があるよ」という話を聞いたんです。能登の食材って本当に美味しくて、こんな食材がある場所で料理ができたらいいな、とずっと思っていました。
それから去年の7月頃に募集が出たので、すぐに応募しました。ありがたいことに通していただいて、タイミングもよかったんですよね。ちょうど東京で働いていたお店を退職する時期だったので、わりとスムーズに話が進みました。
それに、穴水町にはこれまでお世話になった人や知り合いもいたので、不思議と迷いはなかった。自然な流れで「じゃあ行こうかな」という感じで、ここに来ることになりました。
ただ、震災の後だったので穴水にはなかなか賃貸がなくて、どうしようかなと思っていたときに、知り合いが持っていた柳田にある古民家を借りることになりました。
もともとは、その人が民宿をやろうと思って買った家でしたが、震災の影響で計画をやめることになり、今はそこに住んでいます。
家がとにかく広いんです。たぶん8LDKKくらいあるんじゃないかな。一人で住むには正直広すぎてちょっと手に余るのですが、せっかくの古民家なので、いつか何かできたらいいなとは思っています。
今年は雪もすごく大変でした。穴水はそこまででもないのですが、柳田は冬になると豪雪地帯って言われているくらい雪が多い。自分はずっと都会で暮らしてきたので、最初は雪かきも慣れていなくて、正直かなり苦労しました。
でも、その分、四季をすごくはっきり感じられる土地だなと思います。冬は雪に包まれて静かで、春になると山や田んぼが一気に色づいてきて、海もすぐ近くにある。自然の豊かさを日々感じながら暮らせる場所ですね。
大変なことももちろんありますが、そういう環境に慣れてくると、この自然の中で暮らす心地よさの方が大きくなってきます。食べ物も美味しいですし、人も温かい。能登は、ゆっくりとした時間の中で暮らしていける、本当にいい場所だなと思います。

能登の野菜とジビエで広がる料理の楽しさ。
お店のメニューは、熊肉や鹿肉、鴨、猪などのジビエ料理が中心です。そこに能登の地元食材を合わせた料理を提供しています。時期によっては、海外から取り寄せた山ウズラとか鳩みたいな、ちょっと珍しい食材も出しています。
お客さんは常連さんが多くて、七尾や穴水、輪島など能登の方がよく来てくれます。メニューは一品のアラカルトからコース料理まであり、宣伝はSNSと口コミが中心です。休みは不定休ですが、自分に用事があるとき以外は基本的にお店は開けています。
能登に来て感じるのは、魚はもちろん、とにかく野菜や山菜がすごくおいしいことですね。東京だと、農家さんから直接届くような野菜を手に入れるのはなかなか難しく、でも能登ではJAや道の駅があちこちにあって、新鮮な野菜がいつでも手に入る。料理人としては本当に楽しい環境だと思います。
今は、震災前からお世話になっている農家さんに野菜を分けてもらったり、僕のお店用に特別に育ててもらっているものもあります。余裕ができたら、いずれは自分でも野菜を育てて、料理に使えたらいいなと思っています。
ジビエが教えてくれた、命への感謝。
実は最近、狩猟免許の試験を受けてきました。4月には猟銃の許可試験も受ける予定です。現状では熊や猪、鹿を捕獲してもそのうちの9割くらいは結局捨てられてしまっているんです。せっかくの命なのに、それが無駄になってしまうのはすごくもったいないなと思っていて。
自分にできることは、狩猟で獲った動物をきちんと料理して、知り合いのお店や東京のお店にも届けて、できるだけ余すことなく使うことだと思っています。
ジビエについてもっと深く知りたくて、今は穴水の加工場でもアルバイトをさせてもらっています。料理人として美味しく料理することで、ジビエに対して偏見を持っている人にも、そのおいしさや魅力を知ってもらいたいです。そして、自分で卸せるようになったら、リーズナブルに提供できたらいいなと思っています。
今やっているチャレンジショップは2年間の期限があるので、その後は本拠地を能登に置きながら、東京との二拠点で活動していきたいですね。
そのためには、飲食だけだとちょっと弱いと思っているので、狩猟から加工、そして飲食まで一連の流れをつくって、少しずつ規模を広げていきたいと考えています。
僕がずっとやってみたかったのが「オーベルジュ」。能登は海も山もすぐそばにあって、本当に食材が豊かな土地なので、ジビエやこの土地ならではの魚や野菜を使った料理をゆっくり味わってもらって、そのまま泊まってもらえる。そんな場所がつくれたらいいなと思っています。
例えば食育の一つとして、狩猟したものを実際に捌いたり、加工したりして、最後はみんなで囲んで食べるような「狩猟体験」なんかもできたら面白いですよね。能登は自然が身近にあるので、食べ物がどこから来ているのかを体感できる環境があると思います。今住んでいる古民家でやるのか、それとも別の場所になるのかはまだ分かりませんが、この土地だからこそできることに挑戦していきたいです。
もともと移住については、もっと長いプランで考えていました。まず東京で自分の店を出して、そのお店を人に任せられるようになったら、50歳くらいで田舎に移住して店を開けたらいいなと。
でも、いろんなことが思ったより早く進んでしまって、気づいたら途中を全部飛ばして、もう今ここにいます。自然や食材、人の温かさに触れて、ここでしかできない料理や体験を、これから形にしていけたらいいですね。

美しい景色と美味しい食材。不便は感じない能登での暮らし。
能登は山があって海があって、とにかく景色がすごく綺麗。震災後、道路や建物はまだ完全に復興しているわけではないので、これから少しずつ元に戻っていくのを見たいなと思っています。やっぱり、本来の美しい能登の姿をもう一度見たいですね。
それと、とにかく星空が綺麗。東京から友人が遊びに来るときは毎回、雨や曇らないことを祈っていますね。せっかくきたらこの星空を見ないと損です。
能登に住むことについては、全く不便を感じていないです。もちろん、金沢くらいの街に行けば便利なことは多いのかもしれないですけど、コンビニも普通にあるし、ご飯も美味しいし、欲しいものは通販で買えるし、大体のものは手に入ります。なので生活で困ることは特にないですね。
それに空港もわりと近いので、思っているより都心にもすぐ行けるんです。そういう意味では、自然の中で暮らしながら、ちゃんと外ともつながっていられる場所だと思います。
まだまだチャレンジする事がたくさんあります。楽しみながら、いつか夢が叶うように前を進んでいきたいと思います。

